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労組よ、したたかに変化せよ

おかぼん

 2022春季生活闘争もヤマ場を過ぎた。連合の3月18日時点でのまとめによると、賃上げ率は2.14%(昨年同期比+0.33ポイント)。トヨタ自動車、日立製作所、東芝、NECの満額回答に象徴されるように、2021年度の企業業績回復を受けて昨年度比増で妥結する企業が目立った。

 しかしながら、この賃上げ率も定期昇給込みであるから、ベアは1%に満たない水準である。それでも物価が上がっていなければよい。なるほど、数字上は2022年1月の消費者物価(生鮮食品を除く総合)は-0.2%である。しかし、これは携帯電話通信料の値下げによるもので、これがなければ、2%近い上昇率である。すでに、輸入物価は高騰しており、昨年末は前年同月比40%を超える情勢である。

 今後、ウクライナ情勢による原油価格の上昇が続けば、さらなる輸入物価の上昇、ひいては消費者物価の上昇が充分懸念される。皮肉にもこのような外的要因により、日銀が目標とする物価上昇率2%が達成されようとしている。最悪のシナリオである。

 畢竟、2022春季生活闘争は、どのようによく評価しても、かろうじて現在の生活を維持できるレベルで、生活改善にはほど遠い水準である。

 そのようなことを毎年繰り返し続けてきた結果、実質賃金は下がりに下がり続け、1990年と比較すると何と10%を超える下落である。今や日本の賃金は、アメリカはもちろんのこと欧米先進国に遠く及ばず、シンガポールや韓国の後塵を拝する水準にまで下がってきているのである。

 根本的な理由はバブル崩壊以降の景気後退であるが、ほかにもいろいろ理由が考えられる。労働組合の弱体化もその一つであろう。これだけ賃金水準が下がり続けているのに、この間ストライキを行って賃金闘争をしてきた形跡がない。組合員の中には、賃金を上げられないなら組合費を下げてくれ、という声まで聞こえる。

 これから日本の人口減少が加速していくのは確実である。そしてその人口構成も大きく変化していく。加えて、テクノロジーの進歩により、職業の新陳代謝が加速する懸念がある。そのような中にあって、労働組合の役割も大きく変わらざるを得ない。

 答えは決して簡単ではないが、戦後昭和の常識がことごとく覆される時代がやってきつつあることを感じる昨今である。したたかに変化し続ける労働組合に期待したい。