月刊ライフビジョン | 社労士の目から

傷病手当金は職場復帰が前提

石山 浩一

 傷病手当金は、医療保険の被保険者が、業務に関連する傷病以外で4日以上休んだ場合に4日目から支給される。傷病手当金が支給されるのは支給開始から通算1年6ヶ月である。但し、これまでは傷病が治癒して出勤したが再び悪化して休業した場合、出勤した日数が支給期間に通算されていた。今回の改正では、出勤して働いた期間は支給した期間には通算されず、実際に傷病手当金を支給した期間を通算することとし、4月1日から施行される。

1、傷病手当金の支給期間

 厚労省の調査では傷病手当金の支給は、18年度に約200万件で約3900億円支給されているという。全国健康保険協会によれば、19年度に傷病手当金が支給されたのは精神的な病が約3割で、次いでがんが約2割であった。治癒までに長期間を要するこうした病気の場合、体調が良ければ休業期間中でも断続的に出勤することによって、完全治癒後の職場復帰が容易となる。しかし、休業期間中に出勤した場合は賃金の受給に係わらず、これまでは1年6ヶ月の傷病手当金の支給期間にはカウントされていた。そのためリハビリ等を兼ねて出勤すると、その後の休業期間が長引いた場合は、傷病手当金がその分少なくなり躊躇することになる。今回の法改正により出勤した期間はカウントされないため、傷病手当金の支給期間が短縮されることは避けられることになった。

 CSRプロジェクト(がん患者の就労を考えるプロジェクト)が16年に300人の患者に実施した調査では、がんの診断から1年以内に仕事を休んだ日数は平均46日だったという。しかし、1年で完治することはなくその後も通院のため休業が続くことが多く、就業期間と休業期間の合算が1年6ヶ月を超す場合も考えられる。こうした人たちにとって今回の改正は、療養をしながら体調をみて仕事が続けられるため職場復帰が容易となる。回復の見込みがないときや支給開始から1年6ヶ月経過したときは傷病手当金の支給は停止されるが、一定の傷病状態であれば障害年金に引き継がれ経済的な負担が軽減される。

 但し、この障害年金に該当しなかった場合の救済について今回の法改正では検討されなかったようである。

2,長期療養者への傷病手当金

 長期休業者への傷病手当金か、障害年金へ移行するか、の判断は非常に難しい。傷病手当金制度は疾病または負傷のため労務不能になり、収入の減少等をある程度補填して生活保障を行うことである。(法研「健康保険法の解釈と運用」2005年) 同時に障害年金より傷病手当金の方が高いのが一般的であり、該当者としては傷病手当金が望ましい。そして一日も早く職場に復帰して働きたいと思っている。一方、健康保険組合としては回復の見込みがないのであれば、障害年金に移行して欲しいのが本音であろう。最大のネックは健康保険の目的は一時的な傷病に対して給付を行い、職場復帰を促すことにある。一定の障害であればある程度回復の度合いの検討はつくことが多いが、特にがん等の内部疾患は回復見込みやその期間の判断が困難な場合が多い。

3,不支給に関する社会保険審査会の判断(判決日 平成16年11月30日)

 脳出血・脳内出血後遺症のため傷病手当金を受けていた男性は、療養のため平成14年1月1日から同年9月25日まで傷病手当金を受けていた。その後も脳出血後遺症のため、同年9月26日から平成15年2月13日まで労務に服することができなかったとして、15年2月27日に傷病手当金を社会保年事務所長に請求をした。

 これに対して社会保険事務所長は「既に症状が固定しており全面介護状態である」として一時的な労務不能であったとは認められないとして支給しない判断を行った。

 健康保険制度は被用者保険であり、かつ、疾病保険であるという性格から、疾病又は負傷に対する療養給付、あるいは療養費の支給等の保険給付により、労働力の早期回復を図ることを主たる目的としている。特に傷病手当金については、このような性格が顕著に認められる。従って、傷病手当金は、労働に服することができないことが明らかな受給者に対してまで支給すべきでないとなったのである。

 10年程前の調査であるが、13の健康保険組合にアンケートを行ったが、支給するが9組合、支給しないが3組合、ケースバイケースが1組合だった。健康保険組合の財政状況によるところが大きいように感じられる結果だった。


石山浩一
特定社会保険労務士。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/