月刊ライフビジョン | 地域を生きる

市長選が始まった―候補者探しのゴタゴタから

薗田 碩哉

 わが住む東京都町田市では、4年に一度の市長選びの前哨戦が始まっている。すでに4期16年を勤めあげた石坂市長は、まさか5期はあるまいという大方の期待と予想を裏切って、またぞろ出馬宣言。まだやり残したことがおありだと言う。市長の後釜を自認していた前自民党都議の吉原氏は、禅譲の期待を裏切られて大むくれの由だが、もちろん市長選に名乗りを上げた。これまで一枚岩だった保守が分裂、これは市政の刷新を批判して対抗馬を立てながら、候補者を絞り切れずに立憲系も共産党系も名乗りを上げて、連戦連敗を喫してきた革新勢にとってはまたとない好機である。衆院選で実現した立憲・共産の選挙協力を市長選でも行えば、十分勝算はあるはずだ。

 近年の石坂市政は、新自由主義を地で行く「公費削減」と「民営化」路線、特に文化施設に冷淡で、博物館は潰され、文学館も潰されかかり(市民の反対で何とか存続しているが)、図書館は増やす計画が反古にされて削減に向かい、美術館も観光施設に鞍替えのような改造計画を押し付けられている。良識ある文化派市民(もちろん筆者もその一人)は、これを批判してさまざまな会合を持ち、反対の請願を集めて議会に陳情し、講演会をやったり文化イベントに取り組んだりして市民の支持を広げているが、市と行政は「カエルの面に何とか」ぐらいの感じで、着々と反文化施策を進めてきた。これはもうトップの首をすげ替えるしかないというのは、われわれの共通認識になっていた。

 問題は候補者である。教育と文化こそがまちづくりの土台であり、あてにならない外来の買い物客や観光客に焦点を当てるのではなく、住みよい街を作って定住者を増やす方策を考える、そのために図書館や文学館や美術館など文化施設の充実を図る――、こういう政策を掲げて打って出てくれるフレッシュな人材はいないのかとあちこち探し回ってきた。そして一人、われわれの期待に応えてくれそうな人物、まだ40代で青年の風貌を残している奥沢氏が現れた。何度か話し合ったが、教育問題を正面に掲げ、市が進めようとしている小中学校の統廃合の見直しを主張、もちろん図書館削減は白紙に戻すという。政策には共鳴できるし弁舌爽やか、われわれとの受け答えも明快で、彼が革新派の統一候補になってくれれば、市長のクビのすげ替えは十分に可能性がある。

 奥沢氏は2017年の町田市の都議選で都民ファーストから出てトップ当選した人物。その後、小池路線には付いていかず、都ファを抜けて小会派を作り、昨年の都議選はあえて立候補せず、盟友某氏の立憲民主からの立候補を支援した。それは市長選に打って出る目論見があったからだと本人は言う。そして立憲などリベラル派の支援を受けて、市政の刷新を図ろうという魂胆だった。

 ところがことはそう簡単には進まなかった。保守分裂の好機に、立憲民主党と共産党の選挙協力が初めて実現し(昨年秋の総選挙での共闘が土台となった)、市民派から見て絶好の状況になるはずだったのだが、立憲の中のゴタゴタ?があって奥沢氏は推薦を得られなかった。都ファの経歴が問題視されたかとも思うが、もう少し次元の低い、ある国会議員の横やりがあったからという説もある。立候補を決意していた奥澤氏は、後には引けず、あろうことか「維新の会」の推薦を受けることになってしまった。彼の政策はどう見ても維新の反公共政策とは相いれないにもかかわらず。

 かくして統一革新派の推薦を受けることになったのは清原氏である。彼は地元のNPO活動などに長くかかわってきた「市民派」ではあるが、われわれ公立図書館を守る運動派から見ると、市が図書館の直営を放棄するなら市民がやればよいとして、市民参加の図書館代替施設(まともな図書館機能を持たない、単なる読書室)の設置を提唱していた。いわば市政の尻拭いに市民のパワーを利用するという発想で、市民の「知のインフラ」を守るのは市政の責務だと主張してきたわれわれとは、対話はしたものの対立関係にあった。

 清原氏は立候補にあたっての「市民連合」との協定書で、これまでの主張を一蹴して、図書館については廃止を中止し、公共施設再編計画(要するに削減計画)については再検討すると約束している。彼がめでたく市長に当選してこの協定通りに政策の大転換を行ってくれることを期待するものだが、筆者にはどうも今一つ釈然としない気持ちがあることは否定できない。

 候補者の皆さんが口にする「市民参加」という用語が、どうもはき違えて理解されていると筆者は言いたい。清原氏にしてもそうだが、これは行政の施策をお手伝いする市民参加で、ありていに言えば行政の補完的、下請け的な市民参加である。本当に必要なことは、市民が行政に参加するのではなく、行政が市民に参加することでなければならない。市民こそが主権者である。市民の意志をまとめるのが議会の役割、その意志にそって行政を行うのが市長と市役所の任務であり、民主主義とはそういうことでなくてはならない。

 かくて町田の市長選挙は、予断を許さない展開となる。「維新」も保守と見れば、保守が3分裂しているので革新優位だが、総選挙の時の「維新の風」がまたぞろ吹くかもしれない。自民・公明の長期政権には退場してほしいが、立憲・共産ではねえ、と思う市民が維新に票を投ずるかもしれない。何しろ候補者の人物を見れば、奥沢氏がだんぜん魅力的で、他の爺さん・オジサン候補を引き離している。また、混戦になれば、相対的に現職有利という観測も出て来た。人口43万人の中都市で、まさかの5選だけはやめてほしい。投票日は2月20日である。


《地域に生きる》寒風の中で焚火

 刈り入れの終わった冬の田んぼで落ち葉や枯れ枝を集めて焚火をした。

 子どもたちは火を燃やすのが大好き。家ではできない火の饗宴に夢中。猫車で山から小枝を集めて来ては、飽きもせずに炎に投じていた。2022年2月


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。