月刊ライフビジョン | 社労士の目から

昨今の企業風土について考えた

石山 浩一

 昨年は三菱電機や東芝、みずほ銀行など大企業での不祥事やトラブルが相次いで発生している。多くの企業では不祥事等が発生すると、弁護士など社外の有識者による調査委員会を設置して原因の解明を行っている。しかし、不祥事等は後を絶たないのが現状である。

 こうした不祥事等が発生するとその企業風土の問題点が報じられることが多い。企業風土はどうして生まれるのか。

 小学館の国語辞典では、風土とは「人間の文化経営などに影響を及ぼす精神的な環境」であり、三省堂の国語辞典では「(考え方・気質の)傾向」とされている。一方企業風土は1968年にリットビンとストリンガーの2人の学者が「仕事環境で生活し活動する人が直接的、あるいは間接的に知覚し、彼らのモチベーション及び行動に影響を及ぼすと考えられる一連の仕事環境の測定可能な特性」と定義している。測定方法が不明だが周囲に影響を与える空気のようなものであり、その空気に逆らえないような同調圧力があると思われる。

 2016年に電通の高橋まつりさんが自殺、2017年にトヨタ自動車と三菱電機の子会社の社員、さらに2019年にパナソニックの男性社員等の自殺が過労やパワハラによるものと認定され労災が適用されている。2020年度も仕事が原因で精神障害を患い、労災が認定された人は過去最多の608件で、過労死や過労自殺数は148件となっている。こうした企業にとって早急な再発防止対策が求められる。

 今回の三菱電機の品質問題や労務問題、東芝の粉飾決算、みずほ銀行のシステム障害などの不祥事の根っこには、自殺者や品質問題が起こりうる企業風土があると考えられる。

 多数の社員がいる大企業では問題をすべてトップに報告する必要はないが、重要な出来事は当然報告すべきである。その可否は通常管理者が行うが、自分の保身のために報告を行わない場合も考えられる。今回の三菱電機の不祥事も「上層部の保身」や「上にものが言えない」という企業風土が要因と報じられている。

 東芝における不適切会計処理は、トップは指示を否定しているが暗に認めた言動もあり、トップ陣の退任に繋がっている。こうした品質問題や粉飾決算、システム障害を起こす環境が企業風土によるものと、トップや経営陣は感じているのだろうか。社長は社長室に閉じ籠るのではなく、社員との会話がゼロとならないように配慮する。一方社員も社長に「忖度」することなく真実を伝えることである。社長にはこうした環境を熟成して、部下とのコミュケーションを深めることが必要である。こうした雰囲気が連綿と続くことが好ましい社風となっていくのである。

 高橋まつりさん事件で脚光を浴びた電通の「電通鬼10則」は下記の通りである。

 1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。 2. 仕事とは先手先手と働き掛けて行くことで、受け身でやるものでない。 3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。 4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。 5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…。 6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地 のひらきができる。 7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい 努力と希望が生まれる。 8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。 9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サー ビスとはそのようなものだ。 10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと君は卑屈 未練になる。

 昭和20年代のワンマンな社長吉田秀雄が社員に与えた言葉であり、これが電通の社風となったようである。仕事への取り組み姿勢としては理解できる部分もあるが、ワークのみでライフが欠けている。しかも5.の過激な内容は現代では受け入れられず、時代錯誤ともいえる。こうした社風がまじめな社員には重荷になって追い込まれていったと推定される。社風には父親のような「叱咤激励」があり、同時に母親のような「温もり」が必要である。

 職場からの声に、店長が代わったら「有給休暇が取りにくい」や「職場の雰囲気が冷たくなった」等が相談電話に寄せられる。職場の雰囲気は管理職によってつくられ、会社の規則や社風は会社がつくることができ、変えることができるのである。


◆ 石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会顧問。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/