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公文書管理不徹底の残響

司 高志

 国交省でまたもや文書改ざんがあった。

 改ざんされたのは、建設工事受注動態統計調査である。この調査は役所が自ら作るような公文書ではなく、建築業者が受注実績を調査票形式で書いて、都道府県を経由して国に送られてくるものである。マスコミ、メディアでは「統計データの書き換え」と言っているところが多い。

 だが、ちょっと待て。相手先があって、国に出してもらう書類は公文書管理法でいう「行政文書」である。どうしてここに着目しないのか? もう一度言うが、私は、このような文書は、公文書管理法でいう行政文書に他ならないと考えている。

 昨今公文書の管理が日に日に強まっているのは、モリ・カケ・サクラのような事件が起こるたびに、内閣総理大臣からの注意喚起文書が各官庁に出回る羽目になるからである。

 で、罰則も適用するぞ! と言っているわけだが、なんで統計用のデータを行政文書に分類して罰則を適用しないのだ? まったくわからん。

 この統計の書き換えには、改ざんをやめる機会が2回もあったのに、なぜか改善されなかった。

 一つ目は、あの晋三総理の政権下で発覚した毎月勤労統計の不正である。このとき、当該統計以外の基幹統計のチェックが行われ、国交省の建築着工統計も不適切であったことが認識された。通常このようなことが発覚すれば、類似の統計まで範囲が拡張されて調査が行われるものだが、今回問題となっている調査は、基幹統計のチェックから逃れることになった。

 そして次の機会が訪れる。2019年の秋季、会計検査院からこの統計の不確かさが指摘された。これまでは、都道府県に同統計の元データを書き換えさせていたようだが、さすがにまずいと思ったのか、都道府県にデータを書き換えさせることはやめた。しかし、2020年1月分から国交省が直接書き換え始めたというから反省というものがまるでない。

 ここで、現在の政府の動きを見てみると、再発防止に努めるとか、某大臣に至っては、統計上の影響は少ないとか、わけのわからぬことを言っている。重ねて言うが、これは公文書管理の問題である。通常なら、他の機関からもらった文書は、受付印を押して、5年くらいは取っておくものだろう。ところが、元の文書がなくなっており、データの再現が不可能になっている。まさしく、モリ・カケ・桜にそっくりな現象である。この現象は、公文書管理の悪しき風習が、政権が変わっても残り続けてしまった事例と考えられえる。

 再発防止と原因究明はセットである。原因究明がきちんと行われないことには、再発防止が有効になることは少ない。まさに今回の事例は、基幹統計をチェックしたり、会計検査院の指摘があっても生き残り続けてきた。

 推理小説でよく出てくるように、だれが得をするのか、視点を変えてみればおおよその察しはつこうかというものだ。

 直接改ざんさせられている公務員は全く得をしない。見つかれば罰せられるのだからリスクしかない。命じている人間がいたとしても、官邸などに書き換えておきましたとゴマをするわけにもいかないから、リスクだけあって得はない。

 今回の集計方法は、2013年4月ころから始まったようなので、当時のあの晋三総理の公文書管理の残響という推理小説風な推論もできてしまうのだが… 真実は闇の中である。

 もはや、原因究明は不明のままの片輪だけの再発防止だが、やるしかないだろう。ほかの省庁の文書もこの際見直すようにし、罰則は適用しないという徳政令を出したらどうだ。