月刊ライフビジョン | 社労士の目から

テレワークと労働災害

石山浩一

 「テレ」は「遠く」の、又は離れたという意味があり、テレワークは事務所などの本来仕事をすべき場所から離れたところで、情報通信技術を利用して事務所以外の場所で働くことである。その場所には自宅や近くの部屋(サテライトオフィス)や短時間の場合は喫茶店などがあり、そうしたテレワークでの発生する労働災害(労災)について考えてみたい。

1,事務所以外での労働災害

 労災は労働者が業務上の事由により負傷又は疾病の療養のため労働することができないことである。その労災の適用には業務起因性と業務遂行性が求められるが、テレワークなど本来の就業場所以外での事故に対する労災の適用判断は難しい。

 代表的なテレワークとして在宅勤務があり、マスコミ等で報じられることが多い。これは言葉通り自宅で仕事をすることである。通勤時間ゼロ、勝手知った我家での仕事であり申し分ない環境といえる。その自宅での仕事中に玄関で「ピンポン」と来客の知らせがあり、急いで玄関に向かう途中に階段で足を踏み外して転倒、怪我をした場合に労災は適用されるだろうか。上司に自宅での勤務を連絡して了解があれば就業場所としても認められるという。ピンポンを押したのが宅配業者だったが、家族への宅配だったら業務起因性とはならず労災は適用されないのである。これが会社からの仕事用の資料であれば業務起因性があるため労災が適用されるという見解である。同様に勤務時間中にトイレに行って転んだ場合はどうだろうか。これは事務所でも勤務中に起こりうることであり労災の適用の可能性は高いという。但し、就業場所が自宅との上司の了解が必要である。

 このように在宅勤務おける業務上災害か、生活上の怪我かは判断が難しくケースバイケースに委ねられることになると思われる。

2,テレワークでの通勤災害

 通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することである。

 これをテレワークに当てはめた場合、まず就業場所は自宅であり通勤はない。しかし、自宅では狭くて家族のざわめきもあるため近くのサテライトを借りた場合、そこが就業場所となる。従って、その就業場所への往復が通勤となり、その間に事故に遭えば通勤災害となる。就業中にサテライトから自宅に仕事に必要なものを取りに行って事故に遭えば、就業中の怪我のためこの場合も労災が適用される。

 同様に終業後に会社からの指示で仕事の確認をするためサテライトに行く途中に事故に遭えば、就業時間中となって通勤災害ではなく労災となる可能性が高い。

 逆に終業後に自宅に帰りサテライトに携帯を忘れて取りに戻った際に事故に遭った場合はどうだろうか。その携帯が本人のものであれば私用の行為となり労災の適用は難しいと思われる。

 このようにテレワークにおける通勤災害も労災同様に判断が難しく、ケースバイケースに委ねられることになると思われます。            <2021年12月 レポート>


◆ 石山浩一
特定社会保険労務士。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/