月刊ライフビジョン | 地域を生きる

支出費目に兆す地域余暇の変容

薗田碩哉

 昨年来のコロナ禍による生活と社会の激変は、浅はかな人間どもの予測を超えて、さまざまな領域に及んでいる。筆者のテーマである地域生活ももちろん例外ではない。この100年、望んでも得られなかったような大きな変化が生まれている。そこに注目し、これを利用しない手はないはずだ。

 総務省の家計調査によって、家庭経済の面から2020年度にどんな変化がもたらされたか確認しておこう。まずは支出減となったの費目を上げてみよう。外食費が3分の2に減り、交通費は半減、旅行費は3分の1、愛車のガソリン代も2割減った。映画・演劇の費用は半減、遊園地の入場料や乗り物代は75%減、飲食店での飲酒代に至っては8割減(行きつけの飲み屋が次々潰れたのも宜なるかな)。つまりは「お出かけ」型のレジャーはしたくてもできなくなり、家の近所で逼塞していたということになる。

 それでは反対に支出増になった費目は何か。家具・家事用品が1割、肉や野菜も1割、お酒が2割の増、インターネットの接続料は25%増、冷凍食品は36%、チューハイ・カクテルが44%の伸びとなった。家庭に籠ってリモート仕事をしながら一家そろって手作り料理を楽しみ、お父さんとお母さんはチューハイをチビチビやりながら外の世界とはインターネットでつながっているという図式である。要するに「家庭団欒」という古い言葉が復活しつつあったのである。

 その結果、次のような「おうち余暇」というべきさまざまな余暇活動が盛り上がった。

・家事を楽しむ:(特別な)料理、パンを焼く、掃除、片付け、手芸、マスクづくりなど。

・家庭内ゲーム:トランプ、花札、かるた、囲碁将棋、麻雀などの伝統的なものから、テレビゲーム、ボードゲーム、さらには、お家でキャンプ、お家で遊園地、回転寿司(レールおもちゃ利用)などのアイデア出てきた。

・おうちで鑑賞:映画や音楽鑑賞、パソコンを活用した美術館巡りなど。

・ペットと遊ぶ:犬や猫は人間関係の緩衝役として普段にもまして重要な役割を果たした。

・「庭」とレクリエーション・スペース:庭があってこその「家庭」である。園芸、運動スペース、子どもの遊び空間として庭が重要であることが確認された。

・散歩と公園:散歩は生理的・精神的な健康維持に欠かせない行動である。散歩の同伴者がいればコミュニケーションの場ともなる。歩いて行かれる1~2キロ圏内に適当な散歩コースや公園があることが重要な意味を持った。

 こうした行動の結果、2020年のNHK「国民生活時間調査」には顕著な変化が現れた。働く人の平日一日当たりの仕事時間が男女とも1995年以来最短となり、男性は初めて8時間を切って7時間52分となった(女性はもともと短く、今回は5時間42分)。ILOが1919年に定めた1日8時間労働が100年を経てついにこの列島においても実現されたというわけである。今世紀に入ってからも増えるばかりだった一日10時間以上働く長時間労働者の割合が前回2015年の23%から今回一転して15%にまで減少した。「働ぎすぎ日本人」克服の方向が見えてきたのは「コロナの恩恵」と言わずして何だろうか。

 コロナは依然として収まる気配もないが、いずれは感染が下火にはなるだろう。その時、コロナ以前の暮らしがそのまま戻ってくるだろうか。会社一辺倒の働きすぎ日本人が完全復活を遂げて元の木阿弥に復するだろうか。筆者にはそうは思われない(思いたくない)。「コロナの休日」で無理矢理味わわされた家庭の味、そして家庭を取り巻く地域への眼差しの記憶が何ほどか残り続けるはずである。

 現在の日本人にとって「地域生活」は「職場生活」や「学校生活」に比べていささか影の薄い存在でしかない。その理由は、多くの勤労者の生活時間における地域のへの時間配分が少ないことによる。深夜に帰宅して土日も出勤するような人々が地域の存在に気づくのは難しい。コロナの体験が、そこに風穴を開けてくれたのではないかと期待しているのだ。「3密」が回復された暁には、地域における3密の場を、子どもや高齢者ばかりでなく、青年たちや働く父親・母親を巻き込んで充実させていきたいものである。

【地域に生きる76】親子そろって田植え

 毎年おなじみの田植え風景だが、田んぼを共同で耕している「田んぼファミリー」が今年は20家族ほどに増え、手分けをして2枚の棚田の植え付けを行った。初めての田んぼにおそるおそる足を入れ、見よう見まねで苗を土に差し込んでいく子供たちの姿が愛らしい 


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。