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JRダイヤ改正から世相を見れば

おかぼん

 春闘とほぼ時を同じくして、JRでは今年も恒例の春のダイヤ改正が行われる。コロナの影響でJR各社軒並み経営が悪化し、今年度決算は大幅な赤字となることが必至で、そのような非常時でのダイヤ改正は初めてのことである。パンフレットの下に小さくしか書かれていないが、首都圏で生活する者にとって最大の影響は、何と言っても終電の繰り上げ、初電の繰り下げであろう。

 30分程度の繰り上げ繰り下げとなると、特に市場など早朝から勤務の労働者、飲食店など夜遅くまで勤務する労働者にとっては、勤務体制の見直しを迫られる一大事である。緊急事態宣言下、既に終電の繰り上げは先行実施されているが、飲食店の大半は夜10時以降の営業を自粛要請されている中での繰り上げであり、実際に影響の出るのは自粛要請解除後である。

 さて、今回のダイヤ改正では長らく若者を中心に東海道の移動に活躍してきた、夜行の普通列車が名実ともに廃止されることになった。既に定期運行されなくなって久しく、昨年3月末に運行されて以来コロナの影響もあってか運行されない状態が続いていたのだが、その運行に使用されてきた列車が老朽化により引退することになり廃止が決定した。

 最盛期は若者を中心にこの列車に乗客が殺到して、東京駅で積み残しが出たこともあり、その後に出る全席指定の夜行急行列車が、乗り切れなかった乗客に立席急行券を臨時に発行して救済するようなこともあった。途中の乗降は困難を極めたのか、この後続急行は30分も遅れて名古屋に到着した。時代の流れを感じる。

 すでに定期運行の急行列車は存在せず、一世を風靡したブルートレインも今はなく、定期運行の寝台列車は「サンライズ瀬戸・出雲」のみである。特急列車も新幹線を含めて食堂車も今はなく、車内販売さえない列車も数多い。合理化という名の下、鉄道の旅から風情がどんどんなくなっていくのを嘆くのは私だけではあるまい。

 更にこの合理化の下、首都圏の駅でも無人化が着実に進んでおり、さらに今後は編成の長い列車でもワンマン化が進んでいくという。通常に何事もなく運行されていれば大きな問題はないが、ひとたび事故が起こればその対応に大幅に時間が取られることは想像に難くない。人身事故は言うに及ばず、急病人の発生、異音の確認、線路内への人立入など、首都圏ではこのような事故は日常茶飯事である。それを駅員無配置駅近くでは、まずは運転手ひとりで対応することになるのである。

 コロナの影響が長期化し、テレワーク化が進む状況下では最早コロナ前に逆戻りすることはないであろう。すでに首都圏の通勤電車も殺人的な混雑状況ではなくなり、その影響でダイヤが乱れることもなくなってきた。JRの黒字経営が、あの乗客を荷物のように詰め込む殺人的な通勤電車の運行によって支えられていたとは何とも皮肉な話である。コロナ収束後、JRはどのように経営を立て直していくのであろうか。かつての国鉄時代のように運賃に転嫁し続ける愚策を弄することはできないであろう。

 ダイヤ改正のパンフを手に取って、今年ほど考えさせられたことはなかった。