月刊ライフビジョン | 地域を生きる

時空を超えたオンラインまち歩き

薗田碩哉

 このごろ巷に流行るもの、マスク手洗いオンライン…というくらいで、コロナ禍のもと一気に脚光を浴びたのがパソコンをネットワークに繋いで情報交換のできるオンライン・システムである。考えてみればきょう日、どこのオフィスを覗いても、みなパソコンとにらめっこでお仕事をされている。パソコンはどこからでも世界中と繋がれるのだから、何もわざわざ満員電車に押し込まれて都心の仕事場まで出かけなくても、「おうち」でパソコンを開ければことが済む道理である。かくて自宅の書斎のパソコンで仕事をして、週に1,2回オフィスに出向けばいいというようなスタイルがあっという間に広がった。

 他方、友人の大学の先生方に聞いてみると、こちらももっぱらおうち勤務で、朝から晩までパソコンに向かい合って講義をしたり、学生とやり取りをしているという。これまでは授業時間に出かけて行って、毎度しゃべり慣れた言説を教壇から振りまいていればよかったのが、オンラインの講義となると練習や録画が必要になったり、データや図表などを資料映像にしておく必要が出てきたり、学生とのやり取りもその場では終わらず「チャット」という文字によるおしゃべりに付き合い、質問のメールにも答えなくてはならない。事前事後が加わってこれまでのざっと3倍の時間が取られると皆さん悲鳴を挙げていられる。そんな事態になる前に引退してホントによかった。

 仕事や学習がオンラインとなったばかりではない。オンラインの大波はレジャーにも及んで、オンライン遊びも大流行だ。ゲームや動画の類は以前から楽しまれていたが、3密回避で行けなくなった映画やライブコンサートや小演劇などの活動、果ては美術展や博物館などもいろんな工夫を凝らしてオンラインでコンテンツを提供するようになっている。より取り見取りでおうちにいても退屈なんぞする暇がない「オンライン万歳」のご時世なのである。(そしてこの記事の媒体もとうの昔からOnline Journalであります)。

 3密とともに禁止されたのが移動である。日本ではヨーロッパや中国のような都市封鎖まではいかなかった(今後はわからない)が、一時は他県への旅行の自粛が要請され、ために観光関連産業は大打撃をこうむった。そこでお出かけがダメならオンラインがあるさとばかり、オンラインを活用して旅の醍醐味を味わうという試みが登場している。その範疇に入る「オンラインまち歩き」というプログラムを筆者の友人が始めたので参加してみた。行先は東京のど真ん中にある日比谷公園である。

 パソコンを開くとまず画面一杯に大きく緑の地球があり、ぐんぐんズームアップして日本列島が現れ、あっという間に拡大して東京都になる。遥かな高みから急降下する感じで日比谷公園の上空に至る。公園全体のレイアウトを眺めながらガイドの音声が日比谷公園の成り立ちを教えてくれる。次の瞬間、パソコンの前にいる街歩き参加者は、公園の入り口に降り立っている。その先は地図好きの人にはおなじみの「グーグル・ビュー」を使って公園の中を歩き回る。テレビの旅番組で、人間の目の高さにあるカメラが外国の街の中を自在に動き回って街路やお店を紹介してくれるのがあるが、あれと同様の趣向である。

 一工夫あるのは、現在の公園風景ばかりでなく、ガイドの話に合わせて昔の写真が出てきたり、日比谷界隈の古い地図が紹介されるというところだ。明治時代の地図を見ると、今の公園のすぐお隣りが舞踏会で有名な鹿鳴館だったことがわかる。さらに遡って江戸時代の町割り図が現れて日比谷公園の場所は伊達ナントカの守の屋敷だったことが示される。リアルに歩いたのでは見えてこない歴史案内も丁寧にやってくれる。いわば時空を超えた4次元的な散歩を味わえるというのがオンライン街歩きの売りなのである。

 オンラインの可能性はまだまだ開拓の余地があるのだろう。日本という狭い枠を超えたグローバルな絆を育てていくこともできるのかもしれない。言葉の壁も近ごろだいぶん賢くなった翻訳ソフトが乗り越えてくれそうだ。それぞれの国のそれぞれの地域に生きる人たちが「国家」という桎梏を乗り越えて結ばれる日を夢見ることもできそうだ。

 それにしてもオンラインは疲れる。パソコンを見続けていると目はしょぼついてくるし、体も固まってしまう。大きく伸びをして外へ出てみよう。紅葉が始まりかけた地域の公園をリアルに散歩するのがやっぱり一番だ。


【地域に生きる68】[地域のスナップ]

 長雨が続き、台風もやってくるという秋の1日、何とかお天気が持って地域の里山田んぼの稲刈りができた。刈った稲束を大人から子どもへ、また大人へ、手から手へと渡していくのが楽しく、笑顔がこぼれる。


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。