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最近の野党事情 雑感

司 高志

 与党の方は前回述べた通り、前総理の疑惑は解消されたわけではないので、今後も注視が必要である。だが、総理の代弁者として報道などに対応してきた官房長官は、総理擁護を繰り返し、いわば総理との共犯関係にあったわけで、これで前総理も一安心であろう。各種事案の解明や進展は難しい状況となった。

 一方の野党だが、このところの動きについて雑感を述べてみたい。

 世間では、野党は与党の補完勢力などと言われている。与党がどんなに失敗しても、内閣支持率は下がっても、下がった分が野党側に集まらない、つまり野党の行為は間接的に、与党の延命と国民の政治離れを助長することになってしまうのだ。

 さて、大きな動きは、立憲民主と国民民主との合流だが、3年前の分裂劇のリバイバルのようである。3年前と役者はほぼ同じだが、前回との違いは、のみこむ側とのみこまれる側の配役が逆になっているくらいだ。

 3年前を復習すると、民進党の前原元代表が都知事と話をつけてきて、民進党が都知事の党にのみこまれようとした。ところが、フリージャーナリストのY氏が都知事への取材の過程で、全員合流するのではなく、合流する人でも考えの違う人を「排除します」発言を引き出した。これにより都知事の党は急速に失速し、結果的にはソコソコ勝つ程度に終わった。

 衆院選前に、都知事の党に合流できなかった人を集めて立憲民主党が誕生した。これに呼応、共感した有権者は投票でご祝儀票を積んだ。労組の会長が絡んだりしたのも今回と同じだ。前原元代表はかなり詰めが甘かった。都知事としては、民進党の議員を丸呑みすることは最初から考えていなかったのだろう。前原元代表は、当然そこまで読み切って、合流の交渉をしなければならなかった。しかし、同元代表は、そこまで試合巧者ではなかった。力量不足である。

 今回は立憲側が、国民民主を丸呑みしようとしたが、玉木代表が、丸呑みされるのを阻止した形だ。この点では、前原氏よりは読みが深く、交渉の仕方は巧みだった。

 今回もフリージャーナリストのY氏が登場し、玉木代表の「内ゲバなら、政党助成金を国庫に返納する」発言を引き出した。これにより、ネット内では国庫に返納せよという声が大きくなった。実際には、政党解散のため清算して、残りを人数で配分したので、国民民主の議員にはお金が流れたが、立憲民主党にはお金が流れなかった。

 また、Y氏は、玉木代表に「原発ゼロは魅力的な政策なのに、なぜ採用しないのか」と質問した。これが直接影響したわけではないが、原発ゼロという電源構成を巡って、労組の組織に亀裂が走った。自然エネルギーで工業生産が効率的にできるのかは、十分に検討されていないと思える。生産現場を抱えていれば、停電が起きた時の仕掛品の廃棄率や電源再投入時の安全確認など、十分に実用的かは検証するべきだろう。

 第2次世界大戦では石油禁輸で日本をいじめ抜き、やむなく開戦に至らせたエネルギー問題は、今も日本のアキレス腱であることは変わっていない。遠い将来を見越した対応が望まれる。

 今回は、ネットでは、国民民主党に好意的な意見が多かったが、立憲民主党及び国民民主党の政党支持率は以前とほとんど同じであった。両党ともよほどの選挙対策をしていかないと凋落は免れない。国民民主の政策提言姿勢が世間に広まれば、投票先として検討に値するかもしれない。

 次にれいわ新選組だが、個人的には伸びそうな党だと注目していたが、この党は組織を作らず適当に活動しているようなところが見受けられた。その原因は党首にありそうである。

 組織の重要性を認識していないのか、組織をかっちり作ると、自分よりも発言権がある者が登場するのを恐れているのか、これは本人しか原因がわからない。いや、もしかしたら本人すら原因を自覚していないかもしれない。いずれにしても大きな政党になる芽は、今のままならほとんどない。

 組織を作らないデメリットが顕在化したのが、O氏の除籍問題である。

 インターネット動画のライブ配信中に、視聴者との応答で終末期医療を取り上げた。意図としては、ただ単に延命するだけの医療はしなくても良い選択ができるようにしようということだったと思う。しかし、O氏は、こんなことを言うと「命の選別」といわれるが、と前置きし、それは「政治が行う」というようにもっていった。自分で地雷を仕掛けて、思いっきり踏み抜いた格好だ。ところが、これには新選組の身内が反応し、代表に訴えたようだ。発言自体は終末期医療であったが、優性思想につながるとしてO氏を処分した。O氏は離党届を出したが受理されず、総会で除籍にした。これにはネットで大きな反発があり、れいわの支持者が急速に離れていった。

 組織をきちんと整備して、コンプライアンス係とか危機管理係があれば、処分をきちんと行い、今回のような不祥事的な案件に発展することはなかっただろう。

 総会のあり方も批判を浴びたが、「除籍」は罪が重すぎたと思う。万引きをしたら将来強盗になるとして、未犯の罪の強盗で裁いてしまったようなものだ。O氏は、次期衆院選の立候補予定者なので、ワキが甘かったという反省点はある。表現方法もよくなかった。たとえば、「単に延命するだけの終末期医療は選択できるようにする。これを立法化するのは政治家の仕事だ」とでもいっておけば、批判はかなり軽減されただろう。

 終末期医療の限定を外せば、考えようによっては、命の選別という事態もありうる。テロ組織にとらわれた人質を見捨てたのは、命を選別したことになるだろう。

 また、簡単な思考実験で、日本国国民が他国軍に危害を加えられていると仮定して、見殺しにすれば命を選別したことになる。他国軍を迎撃して日本国国民を守れば、これも命を選別したことになる。命の選別の視点から見直すとこのほかにも事例がありそうである。

 責任ある人は発言が難しいのだ。議員、立候補者は失言に注意しないといけない。