月刊ライフビジョン | 社労士の目から

非正規社員に厳しい判決

石山浩一

 18年6月に最高裁は非正規社員に通勤手当、家族手当、皆勤手当など多くの手当について、賃金総額ではなく各手当の目的に応じて不支給が不合理か否かの判断をして支給を命じた。そして今回は賞与・一時金の不支給について初めての最高裁判決となったが、不支給についてすべてが不合理とはならないとの判断を示した。

 同一労働同一賃金のガイドライン(案)では退職金の記載はなく、賞与について「会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない」としている。

“退職金は支給が原則”

 東京メトロの子会社であるメトロコマースの66歳~73歳の女性社員4人は、約10年働いているのに退職金がないのは不合理であり、旧労契法20条に反するとして訴えた。これに対して判決は、正規・非正規社員の仕事はおおむね共通するとしながらも、正規社員は休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって早番や遅番の業務の他、複数の売店を統括するなどの業務を行っている。契約社員には登用試験制度があり、原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められている。こうした制度によって正社員として職務を遂行する人材の確保を図る目的が退職金にはあるとしている。そうしたことから退職金の不支給は不合理に当たらないとし、19年2月に東京高裁が「長期間勤務した契約社員に退職金を支給しないのは不合理」として約25%の支払いを命じた判決を取り消した。ただし、1名の裁判官は「継続勤務への論功行賞の性質があり、仕事内容に大きな違いがなく、労働条件の違いは不合理」と述べている。

 退職金には賃金の後払い的要素があり、賃金の一部ととらえることができる。こうした観点から職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情や勤務成績を考慮し、勤務年数に比例する退職金は支給されるべきであり、今回の判決には疑問が残る。

“業績貢献に応じた賞与の支給”

 大阪医科薬科大でアルバイトの秘書として働いた50代の女性が賞与の不支給について訴えていた。判決では職員は大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり、その業務の内容は配置先によって異なるものの、総務、学務、病院事務等多岐に及んでいる。職員が配置されている部署においては、定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占めている。また、法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれなど責任は大きく、出向や人事異動がある。 一方、アルバイト職員は雇用期間を1年以内とし、更新する場合はあるもののその上限は5年と定められ、業務の内容は定型的で簡便な作業が中心である。また、アルバイト職員については、他部門への異動を命ずることがあると定められているが、原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはない。なお、契約職員は正職員に準ずるものとされていて、業務の内容の難度や責任の程度は高いものから順に,正職員、嘱託職員、契約職員、アルバイト職員とされている。こうしたことから、アルバイト職員は契約職員や正職員へと登用する制度もあり、賞与の不支給は不合理とはいえないと判示した。

 しかし、アルバイトだからとは言え、その貢献に応じた賞与が支給されるべきで、貢献が全面否定される賞与ゼロは不合理と思われる。


石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/