月刊ライフビジョン | 社労士の目から

働く人が主体のライフ・ワーク・バランスへ

石山浩一

 働き方改革がマスコミを賑わしているが、改革は働く人のためのものであり、会社の利益追求のための働かせ方改革ではない。その中心となるワーク・ライフ・バランスも、会社の都合によるものではなく、働く人が主体のライフワークのバランスでなければならない。

働き方改革の本性は生産性向上

 平成29年3月28日に決定された「働き方改革実行計画」の取り組みの基本姿勢では「働き方」は「暮らし方」そのものであり、日本の働く文化に手を付ける改革であるとしている。そのためのワーク・ライフ・バランスは生産性向上のためにも好ましいとしながら、トータルな形で本格的改革に着手できてこなかったとするが、その原因についての説明がなされていない。
 基本的考え方では、子育てや介護、再就職、副業・兼業などに加え、「正規」「非正規」という不合理な処遇差など日本の労働制度が、頑張ろうという意欲をなくしている、この解消で納得感を高め、モチベーションを引き出すと言及している。
 健康や家庭生活に影響及ぼす長時間労働の弊害についても、その解消によってワーク・ライフ・バランスが改善し、単位時間(マンパワー)当たりの労働生産性向上につながるとしている。
 こうした働き方改革こそが労働生産性を改善する最良の手段と強調しているが、「実行計画」からは働く側の立場が感じられない。所詮、働き方改革の主眼は生産性向上であり、その目くらましとしてワーク・ライフ・バランスがあるようにも読めるものだった。
 こう思わせる背景にあるのが、働き方改革の有識者メンバーの構成である。メンバー15人中、企業経営者及び人事担当者などが7名、大学教授など学識経験者4名、各種調査機関2名、女優1名に労働組合代表は1名と、あまりにも経営側に偏っている。生産性向上なくしてワーク・ライフ・バランスなしと言わんばかりで、とても働く人のためのライフ・ワーク・バランスを検討するとは見えない。
 雇用情勢が好転している今こそ、働き方改革を一気に進める大きなチャンスとなっているが、人手不足が深刻化している下で長時間労働が解消できるものだろうか。目玉とされる時間外労働の上限規制も年間720時間であり、長時間労働解消には程遠いのではなかろうか。

働く人の視線でライフ・ワーク・バランスの実現を

 平成11年12月、時の政府は「少子化対策基本方針」を策定した。その方針に沿って平成13年7月「仕事と子育て両立支援策の方針について」を閣議決定している。こうした方針の中心となったのがワーク・ライフ・バランスである。平成19年7月に塩崎内閣官房長官の決済により「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」が設立され、「次世代育成支援対策推進法」が10年の時限立法として制定された。
 会議のメンバーは、関係大臣5名以外は団体代表の経済界2名、労働組合2名、全国知事会1名、有識者として大学教授4名だった。閣僚を除く9名の中に働く側の代表が2名である。
 前回は「少子化対策」が中心で今回は「働き方改革」だが、目的は長時間労働の見直しによるライフ・ワーク・バランスの実現である。前回はそのため多くの数値目標を定めて取り組んだが、最終年度である現在、達成されている項目は少ないようである。

平成19年WLB数値目標 項目  H19年
 
H24年
 
H29年
(目標)
週労働時間60時間以上の雇用者の割合  10.8 % 9.1 % 5.4%
年次有給休暇取得率  46.6 % 47.1 % 100 %
男女の育児休暇取得率 女性  72.3 % 76.3 % 80 %
男性  0.5 % 1.89% 10 %
メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所割合  23.5% 48.2%  80 %

 前回の目標の中で、長時間労働に関連する「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」の実現に向けて、最低でも平成19年に設定した上記項目の数値目標達成に努力すべきと考える。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。
http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/