月刊ライフビジョン | 地域を生きる

まちの図書館を民間に売る―「指定管理」という制度

薗田碩哉

 指定管理制度の活用(というより悪用)は今やどこの自治体でもお家芸のようになってしまった。何でもかんでも指定管理に放り投げれば、直営よりは安上がり(人を安く使える)、お役所がやるよりはサービスも向上して市民に喜ばれるという触れ込みで、全国の自治体のおよそ6万1千もの施設が運営を民間に丸投げされている。そのうち一番多いのは公園や公営住宅、駐車場などの基盤施設で全体の28%、体育館やプールなどのスポーツ・レクリエーション施設と公民館や図書館直の文教施設がともに22%、病院や介護施設などの医療・福祉施設が18%、展示場などの産業振興施設が10%という内訳だ。

 わが町田市も例外ではない。市の会計処理に全国に先駆けて企業会計の手法を導入したことが自慢のわれらが市長は、公共施設を次々と指定管理に回し、とうとう図書館まで民間に売り渡す方針を打ち出した。前市長までは図書館の拡充に力を入れ、43万都市に8館まで漕ぎつけたのに、現市長は整備計画を反故にして一転削減という非文化政策に切り替え、市民の猛反発を招いている(これについてはこのコラムでも再三取り上げてきた)というのに、減らしておいて次は残りを民間に投げるというのだから、図書館愛好者から見れば踏んだり蹴ったりである。市長はよほど本が嫌いな御仁なのだ。

 筆者と言えども民間委託の何もかもが悪いとは思っていない。スポーツ施設のように受益者負担が打ち出せるものは、サービスを改善し、プログラムを工夫して評判を上げれば、それなりの費用を徴収しても利用者に喜ばれる場合もあるだろう。しかし、図書館は公園や体育館とはちょっと違う。古今東西の古典からさまざまな参考図書、小説、子どもの本、地域情報に至るまで体系的に本を揃え、本の専門家である司書がさまざまな相談に応じてくれるのが図書館である。ただの本の容れ物の施設ではなくて、そこで多種多様な情報が交換され、活用され、市民の知的生活が立ち上がってくる知のインフラとも言えるかけがえのない場所である。それこそ市民の税金で公共的に支えるべき場で、営利事業にはなじまない。だいいち図書館の利用は無料と法律で決められているのだから、入場料のたぐいを徴収することはできない。民間で受託しても儲かるはずのない施設なのだ。

 図書館運営を指定管理に出しているのは市区町村立3226館のうち582館でおよそ18%(2018年)だという。いったいどんなところが受託しているのか聞いてみると、最大手は図書館流通センター(TRC)という株式会社だそうだ。もともと図書館活動の総合支援企業としてさまざまな図書館サービスをつくり、提供してきた。そのノウハウを生かして図書館応援屋から一歩前進、図書館運営自体をやってあげましょうということになったらしい。言って見ればこれまで料理屋に食材を納めていた商人が、料理屋そのものを始めたようなものだ。勝手は分かっているのだろうが、年来のお客さんに心のこもった料理が出せるのか、いささか心配ではある。

 あるいは佐賀県の武雄市図書館を請け負って注目を集めた蔦屋書店のやり方もある。市の図書館をリニューアルするついでにカフェや販売店を造り込み、若者が引き付けられそうな洒落たインテリアを配して、スターバックスのコーヒーを売り、新刊書や旅のガイドブックを並べて買ってもらう。図書館は入場無料でも、これは客寄せ装置に過ぎず、周りにお金を落とす場所をいろいろ並べれば全体としては採算が取れるということだ。あまつさえ蔦屋書店は、系列会社の古書店の本を図書館に買わせている?といううわさもある。図書館を囮にしていろいろな商売を貼りつけるというのはいかにも今風の多角経営だが、これで当の図書館が十分な機能を発揮できるのか、はなはだ心もとない。

 指定管理は発注する自治体から見れば経費節減が当然の狙いだから、委託費は現在の経費よりは1,2割少ない予算しか渡さないのが通例だ。そのしわ寄せは手っ取り早い人件費の切り下げとなり、当然、職員の数は減り、質も低下する。利用頻度が高いとは言えない(しかし図書館としては重要な)資料の収集や整理のような地味な活動は後回しになる。子どもや高齢者、障害者へのキメの細かいサービスも低下しそうだ。何よりも市民の図書館が市民の方を向かず、雇い主である行政の意向ばかりを忖度するような方向に向かうことが懸念される。

 民間活力の導入という話題性で当初は注目されても、やがてその実相が見えてしまい、肝心の経費もじりじりと上がって行って、何のための指定管理だったか分からなくなってくる。ひと頃の伸びは止まって最近指定管理から直営に戻すところも出てきたという(茨城県守谷市、山口県下関市)。わが町がこんな愚策に溺れることがないように、図書館を愛する市民はしっかり声を上げて行かなくてはならない。 (この項続く)  


【地域のスナップ】 七夕飾り

 わが住むマンションの恒例の七夕祭り。いつもは子どもも大人も集まってわいわいと飾りを作り、短冊に願いを書くのだが、今年は集会禁止、七夕飾りだけが寂しくホールの空間を埋めていた。(地域に生きる 65)


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。