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アベノ毒矢と毒饅頭事件

司 高志

 まずは「アベノ毒矢」から。

 アベノミクスと称して放たれたのは、実に強力な毒矢だった。アベノ毒矢の現象自体は、すでに何度も本欄で書いているのであるが、再度書く。

 ともかくG民党がやってきたのは、労働者の給料を下げる算段に血道をあげたことだった。この下がった給料は企業の内部留保に化けて、会社に蓄財された。蓄財されたお金には課税を見逃した。この効果により株価は上がったのであるが、働く者の状態は悲惨さを増していった。

 ここで、上がっている株価に着目して、「景気は緩やかな回復基調にある」と大本営発表しているのだろうが、これこそがとんでもない詭弁で、労働者の生活はガタガタになってしまっている。昨年の10月~12月期のGDPは年率で-7.1%に下方修正されている。こちらのほうが生活者の実感に近く、回復基調などとんでもない。-7.1%を見てもまだ回復基調と言い張る神経は、さすがに首相である。

 一方、「3個の毒饅頭」は利権にまみれているばかりではなく、今となってはコロナウイルスまみれになっている。

 まず1個目の毒饅頭は、ウイルスまみれのインバウンドだ。インバウンドとは、海外から来た国内旅行者のことで、アベノミクスで成功したのは唯一、インバウンドくらいだといわれている。そこで、この稼ぎを守るべく、海外からの旅行者等に入国制限を設けず、新型コロナの感染を拡大させてしまった。このときは、政治臭が漂うWHOの発表をすんなりと取り入れ、コロナウイルスを過小評価して、インバウンドの稼ぎを確保しようとした。

 2個目の毒饅頭は、中国トップの国賓としての訪日である。

 得点を稼ぎたい首相は、ウイルスに対する過小評価を変えようとせず、予定通り訪日を決行しようとした。そのための手段が、「検査をしない」というウルトラCだ。幸いにしてこのウイルスは、治療をしなくても免疫力の高い人は自然に治ってしまうようだ。これを利用して、「検査をしない → 陽性が出ない → 感染した事実はない」という、これまた、詭弁としか言いようのない大本営発表をしている。検査をまともに行えば、こんなものではすまないはずだ。

 そうこうしているうちに、諸外国では、日本も感染源とみなして入国制限を始めた。感染者数が少ないのは検査をしないためである、という図式がバレバレだったのではないか?

 そうすると今度は急に、中国トップの訪日を取りやめるなり、いきなり休校等の措置を取り始めた。いやはや、何とも調子のいいことだ。

 そして3個目の毒饅頭、オリンピックの登場である。

 休校などとともに2週間ほど、コンサートなど人の集まる会合が中止要請された。何とか感染を小さく見せるために、2週間ほどおとなしくしていれば、自然に体内に抗体ができると踏んだのだろう。検査をしなければ、仮に感染していても、治っていれば、感染していないのと同じだ。

 そうこうしているうちに、国外で感染が拡大し、国内だけの問題では済まなくなった。ウイルスは忖度してくれないので、世界では、感染はどんどん広がっていて、収束の兆しはまだない。

 にもかかわらず、IOC会長、首相、東京都知事、組織委員会のシンキロー(森喜朗)、五輪相はなんとかウイルスまみれの毒饅頭を食らおうと、餓鬼道に堕ちた金の亡者よろしく予定通りの開催を叫んだ。

 しかし、予定通りの開催にはならなくなった。この方々は、お芝居で「予定通り開催する」と口裏を合わせていたようには見えず、単に目の前のお金に目がくらんだ金の亡者だった。この後の損金や追加負担の配分などの交渉が終わっているとは思えず、困難を極めるだろう。

 オリンピックが中止になったとたん、感染者数が増大し始めた。3個の毒饅頭さえ食らおうとしなければ、もっとよい対策ができたものを、と思う。