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携帯電話料金、官製値下げの失敗か?

司 高志

 某紙のニュースによると、携帯キャリアのS社とK社が増益になったという。しかも両方とも10%代の増益である。あれれ?、某省が音頭を取って携帯電話の通話料を下げたはずが、なんで増益になってしまうのか?

 官庁が新たな規制をするときは、人や企業の行動原理、心理を読んで施策を打たないと、意図した結果と全く違う効果が発動されることがある。その一番ひどかった例は労働者派遣法だろう。正社員が非正規社員に置き換わっていき、儲かったのは人件費を浮かせた企業と手数料を稼いだ口入屋だけで、トリクルダウンなど起ころうはずもなかった。

 さて、テーマの携帯料金だが、携帯電話が世の中にまだ普及していなかったころは、携帯電話機をタダで配っていた。携帯電話はかける側と受ける側が両方携帯であるときに最も効果を発揮する。世の中に携帯を普及させるためにはとにかく持って、使って、通話料金を発生させることが重要だから、タダでの配布方法は成功したといってよいだろう。

 以降、新機種が出たり新技術が可能になるとハードウエアを0円、もしくはタダ同然で配って消費を誘導した。まだ使える機種を持つ人にはどんどん新機種に乗り換えてもらえば、消耗のサイクルを速め、台数も伸びて通信業界全体の利益も上がっていく。

 ところがこのたび、この体制に某省が待ったをかけた、その理由がよくわからない。市場経済は自由競争のはずで、企業同士が競争した方が安くてよいものができるという原理に対して、「タダ同然で新機種を配ってはいかん」と官庁が殴り込みをかけた、その顛末が冒頭の「S社やK社の増益」につながった。

 つまりタダ同然で配れなくなり、ハードウエアを有料化した分が増収の要因になったのであろう。肝心の携帯電話の通話料が安くなったという実感は全くない。広告では4割値下げとか言っているが、それは特殊条件の人としか思えない。これは官庁側の横やりが全く失敗した実例の一つとして、記憶に残ることだろう。

 どうすれば携帯料金が下がるのかには名案はないものの、電車内でスマホいじりする人の気が知れない。肘が当たって迷惑じゃないかと携帯片手にアクセクするより、情報遮断でもして読書や瞑想にふけり、自らが携帯の端末器になることを止めてしまえば自ずと、通話料金も下がることだろう。ゆっくり行こう。