月刊ライフビジョン | 社労士の目から

会計年度任用職員は正規か、非正規か

石山浩一

 非正規社員の増加が社会問題となり、厚労省はパートや派遣で働く人を「非正規」と呼ばないように省内に周知している。その理由は言葉に否定的なイメージがあるためという。それに呼応して、今年4月から非正規公務員の新制度「会計年度任用職員(以下・任用職員)」がスタートする。任用職員は正規だろうか、非正規だろうか。

“任用職員制度と5年ルール”

 「率先垂範」とは先頭に立って模範を示すことである(小学館 大辞泉)。非正規社員には、働きたい時間に働きたい人や正社員を希望しながらかなわなかった人など実態が多様であり、「非正規」と呼ぶことによってそうした人たちにマイナスなイメージを生むことになる。そのためとは言っていないようだが、国は非正規公務員を「会計年度任用職員」とする制度を始める。民間に先立って非正規の呼び名をなくすことを率先垂範したといえる。

 しかし、非正規社員が問題となっているのは、雇用が不安定なことや賃金等の社員との格差であり、それがマイナスイメージを与えているのである。改正地方公務員法では任用職員の任期は原則「1年」となっており、東京都の募集では「1年以内とし、会計年度を超えないものとする。」となっている。ただし、再度任用(契約更新)は可能となっているが、更新回数については自治体の検討課題となっている。これでは有期雇用に変わりなく、非正規公務員の名称を変えただけである。

 2018年4月から無期転換ルールがスタートし、有期雇用契約で働く人の契約期間が5年を超えた場合、無期雇用契約の申し込みができることになった。但し、定年後引続き雇用される場合は、都道府県労働局に届けることによって、無期転換申込権が発生しないという特例がある。この法律は、会社側の一方的な都合で契約更新を行わないという「雇止め」を防止する目的であり、任用職員についても適用されるべきである。従って、規約更新を行わない場合は、行わないことに客観的に合理的な理由が求められる。仮に契約更新の可能性を示唆することや、契約更新に期待を持たせながら雇止めをした場合は法律の主旨に反することになる。任用職員制度では、こうしたことを明確にして新制度を運用すべきである。

“同一労働同一賃金の適用”

 働き方改革の目玉である同一労働同一賃金は正規社員と非正規社員との労働条件の格差を禁じている。今度の国の任用職員(名称が紛らわしいものの)は有期雇用契約であるから当然非正規であり、同一労働同一賃金の主旨は適用される。従って、正規の職員との賃金格差があれば法律違反となる。新制度では賞与を支給するものの年間支給額を維持するため、月額給与を減額する自治体もあるという。賞与は6月と12月に支給されるが、4月に採用された場合6月のボーナスは4月と5月の2か月分が支給となる。12月のボーナスはフルに支給されるが3月に任期満了で契約更新がない場合、6月には在職していないため12月から3月までの4カ月のボーナスは支給されないことも考えられる。

 また退職金については、有期雇用という勤続年数が短い雇用形態のために、これまで請求した事例がないようである。従って、退職金については当面は問題にはならないと思われる。但し、これまで各種手当の不支給について争われているので、任用職員についても問題となる可能性がある。

 正規と非正規の雇用形態による労働条件格差の解消が喫緊の課題である。そしてその根っこにあるのが非正規雇用の増加でありその割合である。このことに国としてどう対応するのかが問われているのである。働き方実行計画には「世の中から“非正規”という言葉を一掃していく」と記載している。それを実現するためにも任用職員制度でお茶を濁すのではなく、国は率先垂範して非正規を減らすために、無期雇用を希望する人を職員に採用すべきである。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/