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自反尽己

渡邊 隆之

 かつてメディアは第四の権力と言われ、政府がおかしなことをすれば事案を冷静に分析し、それなりの批判もしていたものである。しかし最近はNHKも民放も、芸能人スキャンダルに争点そらしをしているように感じる。だから地上波テレビを離れて、なにか知りたい情報については、BS放送やケーブルテレビ、インターネットでの業界新聞や地方キー局の情報、海外の現地日本人のTwitterなど見て、自分なりの判断をすることにしている。

 そんな中、ネットで「自反尽己」という言葉に遭遇した。「自反」とは、つい人に向けてしまいがちな指を、しっかりと自分自身に向けなおすこと、そして全てを自己責任と捉え、「尽己」与えられたその場を正念場として最善を尽くすことなのだそうだ。

 この言葉で「龍角散」の服薬補助ゼリーを開発した福居篤子氏のことを思い出した。当初、病院で臨床薬剤師として働いていた彼女が、患者が薬を飲みやすくする方法を思案して龍角散に入社。しかし、当時の龍角散は放漫経営による倒産危機に瀕しており、新しい発言をする者は疎まれ、彼女が提案した服薬補助ゼリーの提案も月1度の経営会議では散々な評価を受ける。新社長の協力もあって服薬補助ゼリーがヒット商品になるも直後に事実上の左遷。仕事も与えられず退職に向けての嫌がらせも受けるが決して屈しない。「左遷されるには自分にも非があるからだ」と考えた末、土日には製剤の知識を学ぶため大学院に、平日は退勤後に英語学校にも通い、英語での5本の論文を書き上げ、博士号も取得。今では工場から本社に戻り、服薬補助ゼリーは収益の柱に。会社も彼女が入社当時の3倍以上の売上高となり借金も完済、会社は復活を遂げる。

 ハラスメントが横行している今の日本で、すべて福居氏のように対応することは確かに酷である。しかし、自分ばかりでなく多くの人々の幸福のために信念を持ち続け、「今」を真剣に生き抜くという点で、励まされる事例といえるのではないか。

 今年は5月に元号が変わり、ラグビーワールドカップで開催国日本が大健闘し、10月からは台風被害、消費税増税、天皇即位の儀式、ローマ教皇の核廃絶宣言など大変騒がしい1年であった。その反面、国の方向性に影響を与える日米貿易協議や、香港での民主派デモの報道は箝口令を敷いたが如し。香港デモについて私が目にする現地市民メディアや個人のTwitterによると、香港警察の不当逮捕が横行し、怪我人救助に当たった医師が逮捕され、救助活動が妨げられ、ある意味、戦場よりもひどい状況だった。大学に学生が籠城との報道は警察に学内に閉じ込められたともいう。催涙弾も途中から成分が危険な中国産のものに代わり、化学兵器が長期間にわたり使用され、多くの香港市民の身体に異常が出たり、鳥類が死んでいたりと、私の目にする報道は悲惨なものが多い。

 にもかかわらずわが政府はなんのコメントもなく、経済取引を優先させ、多くの香港市民を弾圧する中国の習近平主席を国賓として来日させるという。人権問題への言及はもはや内政干渉ではなく、立派な国際問題だ。ちなみに先の台風被害の際に、香港市民から100万香港ドル(約1382万円)以上の義援金が日本赤十字に贈られたそうである。

 わが憲法の前文にはこうある。「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない…。」憲法のわからない議員を国会に送り込み搾取されているには、有権者である私たちにも非はある。福居氏のようにまではいかないが、筆者も自反尽己を実践してみたい。