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愛は手間暇かけるもの

音無祐作

 東京モーターショーの最中に原稿を書いています。車好きを自称しながら人混みが苦手なことから、見学には行っていません。

 近年、自動車産業に求められている「CASE」への対応が、各地のモーターショーで注目を浴びています。CASEとは「Connected(ネット等との接続)」「Autonomous(自動運転)」「Shared(シェア)」「Electric(電動化)」の頭文字の組み合わせです。

 このうちの「Shared」は、いわゆるレンタカーやカーシェアなどよく知られているサービスだけではなく、最近では個人の車を登録して他人に貸し出すシステムや、利用目的に応じて愛車を交換し合うなどのビジネスも出現してきています。犯罪に利用されたり、過積載など後々車にダメージが残るような利用をされたりしないかと、個人的には不安になりますが、維持費の負担に悩むユーザーなどには少しずつ浸透してきているそうです。

 かつては商用車や小型大衆車などのイメージが強かったレンタカーも、最近は外国製の高級車やスポーツカー、さらには今では希少となったクラシックカー等を扱うなど、車好きには魅力的なシステムも拡がってきています。

 そんな状況にカーメーカーも対応を迫られており、毎月一定額を支払うことによりそのメーカーの複数の車から、その時々で好きな一台に乗り換えられるという、サブスクリプションモデルも登場しています。従来のカーリースと違い、季節や気分に合わせて愛車を選択できるという自由度を魅力にし、拡大を目指しているようです。

 しかしより多くの自動車を販売したいカーメーカーや販売店からすると、複雑な心境でしょう。モーターショーといえば新型車や近未来を見据えたコンセプトカーの発表をしたりと、車の購入を促すような展示がメインです。その目論見に反する戦略となる「Shared」という考え方とどう向き合っていくのでしょうか。

 先述のメーカー主導のサブスクリプションモデルなどは、そうした「お試し」の末に気に入った1台を愛車として購入してもらいたい、というのも戦略の一つだと思いますが、自動車の国内販売低迷に有効な一手となるのかどうか、見守りたいと思います。

 そもそも自動車販売の慣例として、数年で乗り換えを促すような風潮があります。自動車を大量生産大量販売する側の事情として仕方ない所もあるのでしょうが、結果として顧客は購入するときからリセールバリューを考え、無難な選択をすることになります。こうして購入した没個性でオリジナリティーの少ない車を愛せるかといわれても、「愛」は元来、占有したいものでしょう。

 かつて昭和の時代には所有することがステータスの一つであった自動車ですが、ここ20年以上低迷する経済状況と可処分所得の中で、特に最近の都市部では所有する必要性も低く、環境への配慮や駐車場・税金などの維持費に外出先での駐車料金を考えると、先行きはあまり明るそうにありません。

 自動車産業全体としては縮小となるかもしれませんが、生涯において長く愛せるような車づくり、その車をいつまでも機嫌よく維持できる整備やカスタムを支援するビジネスモデルも面白いのではないでしょうか。愛は手間暇かけるもの…ですよね!