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軽減税率は中小企業の負荷を軽減しない

渡邊隆之
 いよいよ101日より消費増税・軽減税率の適用が始まるようである。政府はリーマンショック級の事態が生じない限り断行するとのこと。
 日々のニュースを見ていると、海外諸国では景気減速懸念が高まり金融緩和・利下げの傾向が強くなっている一方、相変わらず日本は「消費税増税命!」を変えようとしない。政府は「日経平均株価が上がった」と騒ぎ、盛んに好景気をアピールしていたが、所詮官製相場。地銀や地方産業の疲弊はかなり深刻だ。
 先般中小企業白書に目を通してみて、国はもっと中小企業に目を向け、現場目線で施策に取り組む必要があるのではと痛感した。
 まず、我が国の中小企業は、2014年時点で約381万社と企業数全体の99.7%を占め、従業者数は約3361万人と雇用全体の約7割を創出しているとされる。
 企業数は年々減少傾向にあり、2009年から2014年まで約39万社が減っている。内訳でみると、中規模企業が約2万社増えるも小規模企業が41万社減少している。特に小売業は1999年当初約108万社が存在していたところ、2014年には約67万社と6割程度に減少している。日常生活での食料品や生活用品を調達するためのインフラが損なわれているのである。都心ではあまり不便を感じないかもしれない。しかし、東京都でも23区外では駅前の大きなスーパーが閉鎖しゴーストタウンのようになっているところもある。
 アベノミクスで倒産件数が減ったと一時期、盛んに報道された。確かに、2008年以降は9年連続で減少し、2017年はバブル期と同水準の8405件となった。しかし、ここ10年で休廃業・解散件数は増加傾向にある。2017年は若干減少したものの28142件もあり、今後の景気動向いかんでは倒産件数が激増するのではないかと筆者は考える。
 中小企業を取り巻く環境は想像以上に厳しい。まずは、経営者が高齢化し事業承継者をなかなか見つけられない。円安に伴い商品原価が高騰し商品価格に一部転嫁するも、客離れを考慮すると十分な価格転嫁ができていない。人手不足・人件費高騰も経営者からするとダメージが大きい。
 最低賃金が徐々に上がっているが、出産後の女性やシニア層は時給だけでなく、時間帯や休日との関係で労働力となってもらえないケースも多い。女性の場合は特に育児、シニア層では介護の関係上、フレキシブルな対応のできる職場でないと働くのが難しいからである。
 税と社会保障の一体的改革の際に取り入れられたマイナンバー制度もグダグダであるし、今回の消費税増税・軽減税率導入もさらに中小企業に負荷をかけるもので、これを機に廃業をする業者も増えるのではないか。軽減税率導入レジ補助金のCMが流れるたびに、この国は税金や社会保険料をいったい何に使っているのだろうとつくづく考える。
 軽減税率については対象品目の税率が分かりにくいばかりでなく、なにをどうすればポイント還元されるかも含め、サービス提供側も消費者側もわけがわからない状態である。「だからスッキリ、10%増税でいい」と財務省は誘導したいのではないか。
 政治家や官僚は現場を見て緻密に考えているのだろうか。目先の税収を増やすことにやっきになって、この国の将来についてどれだけ真剣に考えているのだろうか。
 筆者は将棋対局をTVでよく観るが、終盤の勝負所になると棋士は長考が増える。一手の指し間違いで勝敗ががらりと変わるからである。今回の軽減税率もたぶんグダグダになると予想する。とりあえず当面の生活防衛策としては、まともな法律を考えられる国会議員をウォッチすることにしよう。

《参考資料》診断士ゼミナール 中小企業経営・中小企業政策2019年度資料
      なお、企業数は会社数+個人事業者数とする。