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消費税26%論について考える

渡邊隆之
 去る415日、OECDグリア事務総長は、対日審査報告書の中で、財政の基礎的収支を黒字にするため、将来的に消費税を20%から26%に引き上げる必要があると指摘した。少子高齢化の進む中で財政の持続可能性を確保するためには詳細かつ具体的な計画が必要で、日本は主として消費税に依拠して歳入増加を図るべきであるとする。その理由は、①消費税が相対的に安定的な財源であり、②経済成長を阻害する効果が小さく、③世代間の公平性を改善する効果をもつことによるから、だそうだ。だから秋に予定されている消費税も8%から10%に上げるべきとする。
 OECDの「消費税を主な財源とすべき」との理由を検証する。まず、①について。消費税を安定的財源とするのは、裏を返せば、この国に稼ぐ力がなくなっているということを意味する。であれば、法人税・所得税により多く稼いだところから税収を調達できるよう国は早急に次世代にも通用する産業振興策にテコ入れするべきではないか。成長のない組織は死を待つばかりである。実際には、財界を甘やかし法人税を減税し、大企業や富裕層を優遇し、税収の減った分を一般庶民が消費税で払わされている状況である。安定的な財源という表現も、徴税権を持つ財務省から見た物言いであり、徴収される側の立場を考えていない。財政立憲主義(83条)、租税法律主義(84条)の背後には、国民主権(前文・1条)の思想があることをご存知ないのだろうか。
 次に②について。経済成長を阻害する効果が小さく、という物言いもおかしい。消費税の税率が上がると、外国輸出企業(特に自動車関連)には還付金が入り潤う仕組みになっている。経団連や大企業等はホクホクだが、消費税増税で国内でのサービスの提供先が枯渇してしまう点に着目しておらず、非常に考えがお粗末である。
 さらに③について。世代間の公平性を改善する効果をもつという点も眉唾ものである。ここ数日の報道で、「在職老齢年金廃止を検討」だとか、「公的年金の支給開始を70歳超も可能に」など、財務省絡みのなりふり構わない報道が飛び交う。しかし、そもそも公的年金の制度を現役世代が高齢者へ支給する賦課方式でなく自分のために積み立てる積立方式に移行せず、ずーっとごまかしてきた自民党政権と厚労省に問題がある。この話題は平成16年に大きな問題になったが、現在も賦課方式を続け放置されたままである。彼らは将来のこの国や国民のことなどどうでもよいと考えているのではないか。ここ数十年少子高齢化が叫ばれていたのに状況が変わらなかった点につき、厚労省関連の人口問題研究所という組織がどう機能し、提言内容が国の政策に反映されていたのか、是非とも政府や関係部署にはお話をうかがいたいものである。
 OECDIMFといった国際機関から勧告があると思考停止してしまう方も多い。しかし、財務省や経団連の方たちが既得権維持のために遠回しで言わせているケースもあるという。筆者も今回の報告書に目を通したが、国民負担率の数字を低く評価している点や、提言内容の論理矛盾もあり、アクションプランとしてはお粗末という感想である。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は秋に予定する消費税増税は「自傷行為」だとする。現状の国民の生活および将来のこの国の存続を考えるならばこちらの意見の方が正しいと感じる。
 かつてネスレ日本CEO高岡浩三氏は「お金儲けは悪いことではない。沢山儲けて沢山税金を払い、社会貢献すればよい。」と話されていた。
 消費税の税率低減または廃止と贅沢品に課税される物品税の復活、大企業や富裕層に応分の負担をしていただくよう法人税・所得税の税率を元に戻すこと等により税の所得の再分配機能を復活させるべきである。まずは、有権者が政治と自分の生活とのつながりを意識し、参院選(衆院選も?)に足を運ぶことが大事である。