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交通事故ゼロの願いを込めて

音無祐作

 かつて経済や経営について面白おかしく伝える「がっちりマンデー!!」というテレビ番組の中で、経済評論家の森永卓郎氏が、日本の起死回生究極の経済対策だとして、自動車の右側通行への変更を唱えていた。もちろん冗談なのだろうが。

 たしかにインフラの変更・整備だけでなく、自動車買い替え需要の喚起によって日本経済の屋台骨といえる自動車産業は活気づき、さらには免許を取得する若者の減少で青息吐息の自動車教習所にも、運転者の再教習や歩行者・自転車への安全講習といった福音をもたらすなど、経済効果は少なくないだろう。

 一方、慣れない右側通行とそれに伴う歩行者の左側通行への変更などで、交通事故が激増することも目に見えている。こちらは目を瞑れる問題ではない。

 交通事故のニュースにはとても胸が痛む。運転能力は年齢とともに少しずつ低下する。50代の筆者も若いころに比べれば、危険を察知してからの反応速度は明らかに遅くなっているし、パニック時の対応となればなおさら、能力は低下していると思う。どの段階で「運転は無理」と判断するかは非常に難しい。私見ではあるが、まだまだ大丈夫そうなのに免許返納する方がいる一方で、「この方は?」という方に限って「まだまだ」と自信を持っているケースが、とても多い気がする。

 ある知人は70代半ばでまだまだとても元気なのだが、運転に不安を感じ始めている。まずは自動ブレーキ付の車に乗り換えて、完全自動運転車が手ごろな価格で早く世に出てくることを心待ちにしている。

 自動運転も、レベルによってさまざまある。

 レベル1と2は「自動運転」とは呼べず、「運転支援技術」と呼ばれる。自動運転と謳えるレベル3の市販車は、海外では登場しているが、日本では法整備などの問題から導入予定時期も決まっていない。

 いやその前に、来年から義務化されようとしている衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキである。義務化といっても新車販売としての義務化で、すでに走っている車は適用外となる。しかも、その性能にはメーカーや車種別の性能差が存在し、そもそもあくまで「被害軽減」であって、事故がゼロになるまでにはまだまだ、時間がかかりそうである。

 全ての車に優れた自動ブレーキが搭載されることが理想ではあるが、年齢やエリア、そして使用目的等によって、自動ブレーキ車を義務化するなどを考えてはどうだろうか。今ある車に後付けするのは、技術的には非常に難しいのかもしれないが、ダイハツなど一部のカーメーカーでは検討しているようである。新車販売が主眼の自動車メーカーで対応が難しいようであれば、アフターパーツメーカーなどと公的な研究機関による官民共同開発という手もあるだろう。

 運転好きの私には、それらの支援技術のついた車でしか走れなくなるのは寂しく感じるが、それらの制限は歩行者・自転車の多い市街エリアに限定し、郊外の道では歩・車を分離した安全性の高い道路などのインフラを整備する手もあるだろう。こちらには大きな経済効果も見込めることだろう。

 財政赤字が深刻なこの国ではあるが、都心などにたった2週間の大運動会用の体育施設をいくつも作るより、遥かに有意義ではないかと思う。何よりも事故で失われる大切な命のことを考えたい。