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がんばれ、ユニバーサルデザイン

音無裕作

 一緒に働いていた職場の先輩は事故で右手が不自由だったため、ほとんどの作業を左手で行っていました。ある時、同僚と二人で左利き用のハサミをプレゼントしたところ、開封する前になにやら浮かぬ表情でひとこと。「これ、返品できるかな」

 訳を尋ねると、もう長い間左手で右利き用のハサミを使うのに慣れてしまったので、左利き用は使えないとのこと。いわれてみれば普段から右利き用のハサミを巧みに使いこなし、そのスピードは私たちよりはるかに早いことを思い出し、いらぬ心配だったと痛感したものでした。

 能力や障害の有無にかかわらず、多様な人々が使いやすい「ユニバーサルデザイン」という商品ジャンルがあります。

 私たちの周りにはいろいろなユニバーサルデザインがあふれています。開けやすいレバー式のドアノブ、シャンプー等の容器の脇にある凹凸、押しやすいスイッチ、ビール等缶飲料の蓋にある点字、自動ドアなどなど。最近知ったものでは、網膜に微弱なレーザーで映像を映し出すことで、はっきりとした映像を見ることのできるものもあるそうです。

 その一つにタクシーがあります。

 最近、背の高いタクシーを多く見かけるようになりました。従来のセダンタイプより高級感に欠けると一部の方には不評なようですが、室内の高さがあるので乗り降りしやすく、圧迫感も少なく、大きな荷物でも縦に詰めるとしてスーツケースを持った旅行者などに好評だそうです。

 なかでも、ユニバーサルデザイン・タクシーと呼ばれるものには、車いすに座ったままでの乗車が可能という優れた機能があります。これまでは、車いすユーザーはタクシーの後部座席に移った後、車いすはトランクに収納しなくてはなりません。しかしセダンタイプではトランクにも収まらず、車いすがはみ出したまま走行する光景を目にしたこともあると思います。

 それを解決してくれるユニバーサルデザインタクシー、もっと知りたいと思いネットで検索してみたところ、某社のホームページで車いすの収容方法の動画を見つけました。

 最初に「おや?」と感じたのは、乗降併せて動画が30分もあるということでした。全部見終わって感じたのは、非常に手間がかかるということでした。乗降それぞれおよそ15分、あわせて30分近くもかかります。おそらく現場の作業ではさらに時間を要することでしょう。なんといっても運転手さんの手間が多い。トランクからスロープを出したり、助手席側で作業したかと思えば、運転席側に回ったり、また戻ってきたりと、大わらわです。サンダーバードやロボットアニメのように装置が自動で作動する、までは望まないとしても、もう少し簡単に乗降できればすばらしいことでしょう。

 日本のタクシーは近年、海外でも採用され輸出されています。メーカーの技術者たちも現状を良しとせず、さらに汎用性の進化したユニバーサルデザインのタクシーを送り出してくれることを、私も楽しみに待つその一人です。

 ちなみに最近のハサミはアソビが少なく、右利き用を左手で使っても、ひねりを加えなくても容易に切ることができる製品が多くなっています。これもユニバーサルデザインの進化の1つなのでしょうか。