月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

政治は将来国民への責任を

渡邊隆之
 この冬のあまりの寒さに、外出を控えて家でのんびりしていた。たまたまTVでは、解剖学者である養老孟司さんへのインタビューを放送していた。
 養老先生は、経済性・合理性・効率性を貫くと究極的には少数者の弾圧につながる、というニュアンスの話をされていた。――学校の先生の仕事が多すぎるというのに、子供が少ないからと簡単に学校の統廃合をする。学校の先生は忙しかったのではなかったの? また忙しくなるじゃないの? それに統廃合を進めたら、子供の教育を受ける環境は悪くなるのでは? この国の将来を見据えていないのでは? ――
 そういえばかつてリストラなる言葉も流行ったなあ。この経済性・合理性・効率性というのは主に人を扱う企業とか組織の立場から使われることが多くて、ヒトは人件費という費用の意味に置き換わった。で、正規労働者を減らし非正規労働者が増え、結婚できない人、子供を育てられない人が増え、結果、少子化が進む、下降スパイラルが進む。労働者が減ってきたから「入国管理法」を改正して、外国人にもバンバン単純労働してもらうって、この国は病んでるなあ。しかも、日本の生活に溶け込んで働く外国人も『移民』でないなんて。いったい誰に遠慮して発言しているんだろう。
 少数者弾圧の究極は、19人の入所者を殺害した相模原の津久井やまゆり園事件だと養老先生は言う。世の中のことが「意味がある」「意味がない」の基準で判断することの危険性も指摘していた。
 「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」金子みすゞのこのフレーズが私は好きだ。意味がない、存在価値がないという前に、どうしたらその者が本来持っている個性を発揮できるか、その環境を整備するほうがよほど、生産性に貢献する。
 自民党では「LGBTは子供をつくらず生産性がない」とした杉田水脈・衆議院議員に続き、今度は平沢勝栄・衆議院議員も「LGBTばかりだと国が滅びる」旨の発言をした。しかし国が滅びるというのであれば、簡単に税金を巻き上げられる消費税で庶民を委縮させ、結婚や子育てを躊躇させる与党の政治責任はどういうおつもりか。もっとも「女は産む機械」などと発言した方もいたので、これがこの党の本質なのだろう。
 別の討論番組で、「どうして少子化対策について消極的なんですか?」との質問に、「だって選挙権を持つの18年後だよ」と答えた議員もいたそうだ。漫才師にネタを提供してどうするのだろう。
 先般亡くなった樹木希林さんは「若者の失敗は国を滅ぼさない。老人の跋扈が国を滅ぼす。」と言っていた。問題の本質について考えられない、自己保身だけの議員の方々にはどうか早くお引き取り願いたい。
 ところで著作権関連の勉強会の最近のトピックは、AI(人工知能)と著作権の話題。私が受講したある講師は、従業員にまず「(自分の仕事が)他人の幸福にどうつながるのか」を原稿用紙に書かせるという。
 そうだ、経済性・合理性・効率性もAIも、人間が幸福になるためのツールだったはずだ。いまの政権は戦没者等「過去の国民」に重きを置いた発言が多いが、現行憲法の「全国民」には「将来の国民」も含まれる。首相官邸に遠慮し国会が機能不全に陥って、地上波マスコミも核心について報道をしない今、「個人の尊厳」(憲法13条)に資するか否かという基準で、経済性・合理性・効率性について声を上げるべきではないか。主権者は国民なんだから…。炬燵でみかんをほおばりながら、そんなことを考えていた。