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「日本」は「取り戻」せたのか?

渡邊隆之
 新年である。いよいよあと数か月で平成も終わりを告げる。
 平成301223日。平成最後の天皇誕生日での一般参賀者数は8万2850人に達したそうだ。1つのイベントとして参加された方も多いであろうが、これを機に天皇の言葉や歴史・時代背景にも是非、関心を持っていただきたい。
 私が今の天皇について思い出すのは、皇太子時代にひめゆりの塔にお参りに行かれた時のことである。火炎瓶を投げつけられてあわや大惨事となりかねない状況であったが、当時の皇太子と美智子妃は微動だにせず、塔を拝まれていた。その姿が今でも私の記憶に焼き付いている。本来であれば恐怖心でもう二度と、沖縄には行きたくないはずだ。しかし、第二次世界大戦の焦土と化した本土、地上戦の行われた沖縄、離島で後方支援なく餓死・戦病死していった多くの人々、兄弟や親を亡くし生活に苦しむ人々…。戦争の惨禍を目の当たりにし、「日本は平和国家でなければならない」という強い思いが、各地に足を運ばせるのだと思う。
 日本国憲法のこともよく勉強されている。「象徴としての天皇」とは何ぞやといつも自問自答されている。被災地に赴き、ひざ詰めで被災者を激励するのはその表れだと感じる。秋篠宮が、大嘗祭は宮廷費ではなく内廷費であまり費用かけずと発言したのは、同じような考えからだと思う。
 さて、与党自民党の安倍氏は「日本を取り戻す」と叫んでいたが、何かを取り戻せたのだろうか。そもそも想定されている「日本」が何なのかがよくわからない。
 安倍氏を応援する団体の中には「日本国民は単一民族、(森元首相のように)日本は天皇を中心とした神の国」と主張される方もおられるようである。しかし、実質移民を推進する入管法の改正も強行採決したし、皇族制度への議論もいつのまにか消えてしまった。応援団の方々は納得されているのだろうか。
 経済についても、世界の時価総額ランキング上位50社中の日本企業の数は、平成元年の30社超から平成30年にはトヨタ1社へと激減している。シャープ、レナウン、パイオニアといった有名企業が外国資本の傘下に入り、いま話題の日産自動車もフランスの国営企業にされてしまいそうな勢いである。いまやIOT(モノのインターネット)時代、自動運転にみられるように情報が駆動力となり、わが国の基幹産業のトヨタもウーバー社の傘下に入るのではないかと危惧する方もいて、産業について次の一手を模索しなければならない時期に来ている。それを応援するのが政治の役目ではないか。
 農業についても種子法の廃止、水道民営化等法案が可決されており、1230日発効のTPP11で国民生活にいかなる影響が出るのか不安な状況だ。
 国防も、アメリカから多額の戦闘機を言い値で購入するようだ。しかし、自衛隊員が減り採用年齢や定年年齢を引き上げる状況で、無駄な出費とはならないのか。
 ファーウェイの件で騒がれているように、中国には長期ビジョンがある。日本の政治にはそれがない。日本国憲法に熟知しない首相の下、誰のための法律・政策がなされているのかわからない。
 私の考えを言わせていただこう。
 日本を取り戻すとは、「戦争をしない国を取り戻す。国民の当たり前の生活を取り戻す。」ということだと思う。そのためには今までの歴史や憲法の意味合いを熟知した政治家が登場し、国会で論戦を繰り広げなければいけない。それができていない今の日本は不幸だ。
 取り戻す主体とは、国民である私たちである。幸い今年は参議院選挙もある。国民生活についてこれ以上高い授業料を払わないよう、自分たちの意見を持って1票を投じたい。