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さえない政財官と工夫する民間人と

渡邊隆之

 岸田政権発足から早1年。テレビ画面を見ても岸田首相はかなりお疲れのようだ。当初、新しい資本主義というスローガンを掲げ、成長と分配を強調していたが、国民が前向きになる大胆な政策が出てこない。TV越しの疲れた岸田首相の表情が死神に見えて仕方がない。コロナ対応で不評だった加藤厚労大臣が再任、他人事のように淡々と語る松野官房長官、鈴木財務大臣など、覇気が感じられず、明るい展望を見いだせない。

 加えて、ここにきて国民年金納付の5年延長、退職金への増税、消費税増税など国民の可処分所得を減らす観測気球が目白押しだ。円安・株安・物価高に加え、この状況下で国民負担を負わせての「成長」とはいったいなんなのだろうか。

 思い起こすと、明らかに2001年の小泉・竹中政権での非正規雇用拡大から氷河期世代の全体的な稼得能力が落ちた。新たに導入された介護保険料の負担も大きな重しになり、それ以降、筆者も給料が増えたという実感がない。自ら自立し、家庭を持ち子供を育てるハードルも高くなっている。当然、社会保険財源を支える人材も減るに決まっている。

 竹中氏いわく「非正規労働拡大は働き方の選択肢を増やしただけ」「そもそも年金だけで生活できる制度設計になっていない」とうそぶくが、どれだけの人が納得できようか。

 平成16年(2004年)の年金改革で、物価の変動に応じて年金の改定を行う物価スライド方式から(物価上昇率より年金額の上昇を抑える)マクロ経済スライド方式へと移行したが、このときにも年金制度の在り方についてかなりの議論があった。

 現在の年金は世代間扶養を前提とした賦課方式だが、自己のために積み立てる積立方式が適切ではという声が上がった。この点、国民年金法4条の3では、政府は財政均衡期間の見通しを作成しなければならないとしているが、この期間は同条2項で概ね100年とされ、「100年安心、絶対大丈夫!」と現行の賦課方式が維持された。当時のその揺るぎない自信はどこから湧いて出てきたのだろうか。

 当時生まれた子供は成人になっている。政治家はもちろん官僚・諮問機関・政府はなぜ今回の選挙前に問題点を提起し争点としなかったのか。やり口があまりにも汚い。

 国に財源がないという割には法的根拠の薄弱な安倍晋三氏国葬を詭弁で強行した。これに飽き足らず、永田町では安倍晋三氏記念紙幣(参万円札)を発行し永久に通用させたいとの怪文書も出回っているそうである。国民の税金は議員のお小遣いではない。

 国家の三要素は、領土・主権・国民である。1973年のオイルショック以降少子化は続き、人口問題研究所や総務省の推計等でも急激な人口減少を十分予見できたはずである。国家を支える次世代「国民」減少を目先の票につながらないからと事態を放置してきた与党自民党政権の罪は重い。

 政治不信からくる投票率の低下をいいことに、積極的な政策提言をするのではなく、宗教団体・カルト団体の組織票目当てで選挙活動を行い、政治過程を歪めてきた与党自民党に対し、国民はもっと厳しい目を注いでもよいと感じる。

 今話題の宗教法人法改正や反カルト法の検討のみならず、民主主義の健全な発展に寄与するよう政党助成法や政治資金規正法、ザル法と揶揄される国会議員資産公開法の見直しもした方がよいと筆者は考える。

 また元国税調査官大村大次郎氏は、財務省が法人税増税等でなく消費税増税に熱心なのは、財務省のキャリア官僚が大企業に天下りし短期間で大金を手にしたいからではと指摘する。指摘の真偽について筆者は判断しかねるが、少なくとも消費税は消費へのペナルティであり、経済衰退のもとになる。まずは、消費税の実際の使われ方、天下り先企業と国の政策面での利益相反関係等についての第三者機関による分析がほしい。さらには政府税調メンバーにもっと中小企業や個人事業主・消費者代表が入り、より納得感のある税制改正を望みたい。

 最後に、お口直しに換えて民間企業のうち、低価格イタリアン「サイゼリヤ」の取り組みをご紹介したい。

 外食他社が次々と商品価格の値上げをする中で、「サイゼリヤ」は国内での価格据え置きを発表した。理由は、海外展開での利益が出ているからのようである。いまだ賃金が上がらぬ消費者にとっては有難い。

 同社については、以前TVで特集があったが、コロナ休業の時にも学生アルバイトに給料を払い、調理用の冷凍食品を配布していた。生産者保護のため、仕入れも辞めず流通も切らさなかった。コロナが小康状態になった時には、従業員の健康に配慮し、細かい釣銭渡しがないよう価格改定をしていたと記憶している。元三ツ星料理店のシェフがその仕組みを体験するためアルバイトに来ていた映像もあった。コロナ禍で苦しい飲食業界の意向が政策に反映されないのは関係者の「投票率の低さ」にあるとして、「選挙で意思表示をしよう」と社長自ら従業員に提案もしていた。

 為替で円の価値は下がったが、中国の若者など日本で働きたいという外国人も多い。それは人の優しさや会社の福利厚生のよさがこの国にはあるからである。心地よい社会を作れるよう、まずはそれぞれ工夫し、理不尽な国の政策には厳しい「No!」を突き付けたいものである。