みんなのコラム

ある展覧会図録から

POOH

 武蔵美大のスクーリングの合間に神田神保町の古書店を巡った。すると古い展覧会図録を発見した。1972年・新宿小田急百貨店で開催された「ウィーン幻想絵画展」の図録である。
 私が高校生の頃、この展覧会を観た記憶がある。その時私は高価な図録が買えず絵葉書を買った。私は迷わずこの宝物のような図録を買った。
 ウィーンで有名な画家といえばクリムトやエゴン・シーレだが、幻想派のフックスやハウズナーといっても知る人はあまりいないと思う。第二次世界大戦が終わりナチスドイツから解放された直後のウィーンに、なぜ幻想派レアリスムの画家たちが生まれたのだろうか。この図録に収録されている美術評論家・坂崎乙郎氏の解説を興味深く読んだ。

 「芸術が新奇なものを求める。なにも不思議なことではない。もし芸術が時代と歩調を合わせて進み、現代の唯一の神は科学なのだから芸術が科学に適合しようと努力して、歴史の進歩を信頼できるのならば。
 ところが、誰もが熟知しているように、芸術はすでに文化の第一線を退いて久しく、もはや社会的な発言力も有していないのである。芸術はせいぜいみる者に息抜きを与える役割か、スキャンダラスな行為か、時流への迎合しか果たしていないとも言えよう。」そして「幻想レアリスムは、この種の現象に対する一つの有力なアンチテーゼである。」と書かれていた。

 45年もの歳月を経ているというのに、今もなお芸術の置かれている社会状況は何一つ変わっていないのではないかと思った。表現者の感性が問われているのでは、とも。