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外国人労働者の人権配慮で国力を上げよ

渡邊隆之

 今年も新型コロナに振り回され、総じて気持ちの晴れない1年であった。かつての自民党選挙CMで安倍晋三氏が「美しい国、日本」、(誇りある)「日本を取り戻す」と訴求していたが、今、視聴し直すとやるせない気持ちになる。新型コロナで廃業や雇止めに遭い、自殺や路上生活に追い込まれた方もいる。歌舞伎町には街娼となった女性もいるという。芥川龍之介の「羅生門」の、疫病がはびこり、仕事を失った下人が飢え死にするか盗人になるか思案している状況とダブってしかたない。

 多くの方々がコロナ禍で生活を再建中と推察するが、皆が前向きになる、日本が持続可能で裕福な国となるために何が必要だろうか。まずは、同一労働同一賃金の徹底や男女賃金格差の原則的撤廃、生活困窮者が再度自活のためスタートラインに立つためのきめ細かいセーフティネットが必要と筆者は考える。

 賃金は労働者の生存権(憲法25条)に直結するものである。人件費を経営の調整弁に使うことは、次世代の生産人口を増やすことができず、長期的には国力を弱めることになる。経営者にとって大事なのはよいサービスを提供し、より利益を上げるために働き方をどう改善するかを考えることである。現在、経済界や政府は外国人労働者の受入拡大に寛容だが、筆者としては低金利の今こそ、国内の日本人労働者でどれだけ踏ん張れるか、設備投資や働き方改善を行うべきだと考える。

 これに対しては、人手不足で仕事が回らないとの反論が考えられるが、受け入れ拡大をしたい本当の理由は、日本人がやりたがらない低賃金・重労働の仕事を外国人労働者にしてもらいたいからではないだろうか。むしろ新しい技術や働き方の改善により、業界の日本人労働者が増え、賃金が上がる方法を模索したい。日本はGDPでは世界3位ではあるが、平均賃金はOECD35か国中22位であり、韓国よりも低い水準にある。日本人労働者の賃金を上げることは国にとっても意味がある。

 日本が貧乏になり、為替が円安に振れれば海外物資の調達コストも高くなり、国内での事業経営が苦しくなる。海外資本による国内の企業買収や不動産買収が加速することも考えられる。また、その外国人労働者の国が豊かになった場合、日本人が敬遠していた低賃金・重労働を引き受けてくれるであろうか。日本人がその仕事をしていない以上日本にそのノウハウも蓄積されない。さらに今度は貧乏になった日本人が海外に出稼ぎにいくことにならないか。

 すでに日本では多くの外国人労働者を受け入れ、私たちの生活を支えていただいているが、筆者が受け入れに慎重なのは別の理由もある。出入国管理をする法務省と就労管理をする厚労省の狭間で、外国人労働者の労働環境整備や社会保障についての体制が脆弱だからである。雇用先で不当解雇に遭い生活困窮に陥り、犯罪に手を染めたり在留資格が短期滞在になり、病気になっても国民健康保険が使えないなど、外国人労働者の人権にかかわる問題への体制が不十分だからである。

 自分のことのように隣人を大事にするというのが「美しい国、日本」であると筆者は解釈する。苦しいことが多かったこの1年だが、だからこそ得られた経験や新しい発見もあったはずである。周囲の人々と手を携えて、皆でこの困難を乗り越えていこう。