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まだカウンター・デモクラシーがある

渡邊 隆之

 4月25日に実施された衆院北海道2区・参院長野選挙区両補欠選挙、参院広島選挙区再選挙の結果は、いずれも野党候補が当選した。しかしながら、各選挙区で6,7割の有権者が意思表明をしていない。国民の政治に対する不信感・諦めも原因のひとつと思われるが、選挙と政党を通じて声を届けるという現在の民主主義の仕組みが限界に来ているのではないか。

 この点も踏まえ、最近では、選挙代議制民主主義を補完するものとして「カウンター・デモクラシー」という言葉を耳にする機会が増えてきた。「カウンター・デモクラシー」はピエール・ロザンヴァロン氏の著書で使われる言葉である。政治不信の時代に、人々が自分たちの言葉を届けるには投票以外の方法も必要とする。選挙という「信任」と「監視・否定・審判」という不信の二元性こそ民主主義を担保するとし、デモやNPO,SNSなど代表制を補完する「松葉杖」としての対抗民主主義を論じている。

 日本でも過去に「保育園落ちた日本死ね」「検察庁法改正案の強行採決に反対します」等のツィッターで国会が動かざるを得なくなったケースはあった。それに加え、今回、違憲訴訟を通じて議会外の多数意見を表明するケースが出てきたので紹介したい。

 3月22日、飲食チェーン「グローバルダイニング社」が、東京都に対する国家賠償請求訴訟を東京地裁に申し立てた。一企業に対して出された都の営業時間短縮命令、及びその根拠となる新型インフルエンザ等対策の改正特別措置法(いわゆるコロナ特措法、以下「特措法」という)が違法・違憲であることを主張し、損害賠償(1円×26店舗×4日間=104円)を請求するものである。

 同じ日に訴訟費用を募るクラウドファンディングも設置されたが24時間で目標額の1000万円を超え、4月29日現在で2200万円の資金が集まっている。コロナ禍における一方的な行政の権限行使に理不尽さ、苦しさ、憤り等様々な感情を抱いた多くの人々が訴訟の趣旨に賛同し、身銭も切って支援をしている。確かにコロナは未知のウイルスだが、行き過ぎた規制は人々の生業を奪いかねない。特に女性、非正規雇用者、自営業者等については自殺に追い込まれることもある。

 この訴訟は、訴額を104円(1円×26店舗×4日間)としたことから明らかなとおり、何らかの経済的利益を求めるものではない。司法の場では、命令を受けた者しか原告になれないが、クラウドファンディングを媒介に、行政に違和感を感じつつ声を上げられない人々の思いも乗せて訴訟にあたることになる。

 立憲主義・法の支配の下、裁判所は憲法の番人・人権の最後の砦である。代議制で代表者が多数決により決定した内容も個人の尊厳を侵すものであれば覆される。また、違憲訴訟において、行政権による私たちへの権利制限については、行政側が立証責任を負うので、議会や記者会見でごまかせても司法の場では十分な説明責任を果たさなければならない。意思決定プロセスが明らかになるとともに、新たな情報開示も期待でき、有権者にとり今後の判断材料を得る機会ともなる。今後の訴訟の経過について推移を見守りたい。