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電動モビリティに思うこと

音無祐作

 交通事故による全国の死亡者数は1970年にピークとなる16,765人となり、その後減少傾向にあったものの、1980年代中頃には再び増加し、1988年には1万人を超えました。

 1990年に再びピークを打った後は減少傾向となり、昨2020年は、コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛効果もあってか、ついに3,000人を切るまでになりました。スバルの安全運転支援システム「アイサイト」など、自動ブレーキシステムを始めとする車両の安全運転支援装備の発達による効果とも言われますが、警察や行政による様々な努力の成果も大きいのではと思います。

 ところが悪法というか、そんな努力を打ち消すかのような解釈の変更が2008年6月1日から行われています。自転車の原則車道走行です。

 それまでも自転車はあくまで「軽車両」であり、法律上は「車道の左側」を走るものではありましたが、国道や片側2車線以上あるような道路では、歩道を走ることが暗黙の了解とされていました。しかし、対歩行者の事故を防止する観点が優先され、「自転車は車道を走るべき」というコンセンサスが形成されました。

 たしかに歩行者の多い駅前や、商店街近くの歩道を走る自転車が危険だと感じるときは多々あります。逆に自分が若い頃は、歩行者をよけるのが面倒だったり段差の振動を嫌ったり、大きな県道では車道を自転車で走ったりしたものですが、あくまで若さゆえの過ちだったと反省しています。

 法改正以来、車道での自転車事故が急増したとの報は聞かないので、これを推進した方々は大成功だとほくそ笑んでいるかもしれません。しかし実際のところ、自動車を運転する方は、急激に増加した車道の自転車台数に危険を感じたことはないのでしょうか。路線バスやタクシーの運転手の方々のストレスは相当増えたのではないでしょうか。今月のJAFの機関紙のクイズでも、車道の自転車を避けるケースが取り上げられていました。

 一部では道路を色分けし、矢印を書くなど、行政としての安全確保策は見受けられますが一方、免許取得の必要のない自転車ライダーたちの中には、夜でも無灯火で車道の右側を逆走してくるような例が後を絶ちません。

 さらに事故の危険を予感させるのが、「電動モビリティー」です。

 以前、電動キックボードによる事故やトラブルが増加しているという海外のニュースを見ましたが、その時点ではまだ日本での認可はされておらず、「あんな乗り物で公道を走ることを認めるなんて、なんと愚かな事か、その点日本はまだマシだな」と感じていましたが、何を血迷ったのか誰に気を使ったのか、日本国内でも無免許で歩道などを走れるようになる方向のようです。

 無免許で乗れるものは、時速15km以下に制限されているということですが、15kmといえば、買い物用自転車でも速めに感じる速度であり、人とぶつかれば十分に危険です。自動車免許を返納した高齢者のための手軽な乗り物との大義名分があるようですが、「小さな板」の上に立ち、ハンドルに置いた手だけで車体を支える不安定な乗り物のどこが高齢者のためなのか、不思議でなりません。

 歩道や店舗内でのシニアカーですら、マナーも気配りもない方が成人男性の早歩きに相当する時速5kmで走るのに十分な危険を感じますが、電動キックボードのようなスポーツ乗り物には歩行者にさらなる危険を感じさせます。

 自由だの規制緩和だの、言葉の響きは良くても誰のため、何のためにそのようなものを取り入れるのか、熟考の要があるのではないでしょうか。高齢社会只中の現代、本当にお年寄りの事を考えるならば、やることは他にいくらでもあると思います。そんな乗り物で他の方に危害を及ぼせば、さらなる不幸につながるのではと心配になります。