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令和3年度税制改正大綱の忘れ物

渡邊隆之

 昨年12月21日、令和3年度税制改正についての閣議決定がなされた。筆者も含め一般人にとっては税制の内容を理解するのはなかなか難儀である。財務省のサイトにある改正概要の説明にはこうある。「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション及びカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設ける。また、中小企業の経営資源の集約化による事業再構築等を促す措置を創設する。加えて、家計の暮らしと民需を下支えするため、固定資産税の評価替えへの対応、住宅ローン控除の特例の延長等を行う。」と。

 一瞥して感じたのは、社会環境・労働環境の変化に伴い新たな設備投資をした場合に優遇措置を与えるというものが多いという点である。

 この閣議決定がなされたのは、新型コロナの第3波が拡大途上にある時期である。コロナ禍であえぐ事業者や消費者が増える中で、何故、彼らの救済でなく、新規設備投資の話が多く語られるのか。感染拡大が続く中、検査や医療支援でなくGoToトラベルへの1兆円補正予算に固執した政府の国会答弁が頭をよぎる。

 ところでなぜそもそも税収が必要なのだろうか。公認会計士・税理士の森井じゅん氏は、税収は財源でなく経済の調整のための手段なのだという。家計と異なり、国は自国で自らお札を刷れるから国家の財政破綻はない。ただ、税を徴収しないと一部の者に富が偏る等で悪影響が出るので、お金を回し、経済を調整するために税を徴収するのだと。このことは自民党衆議院議員で税理士資格を持つ安藤裕氏も全く同じ主張をしている。

 この税制改正大綱の決定プロセスについてであるが、各業界団体等からの要望が各省庁・財務省主税局等を経由し、与党税制調査会の議論を経て決定されるという。ということは、この国の事業者の99%以上を占める中小企業の多くや消費者の意向は、あまり反映されていない。

 もちろん、税制を変えるには、それを施行する法律につき国会審議が必要となる。しかし、政府に忖度する官僚、税について不勉強な国会議員も多く、国民やこの国の将来のためになる審議を期待することは困難である。

 今回の税制改正大綱の内容を見るならば、コロナ禍でも財務体質の強固な事業者であれば更なる新規設備投資ができるが、それ以外はあまり恩恵を受けられない。かといって現在財務基盤が脆弱な事業者が一斉に淘汰されるべきではないし、半ば半強制的に別事業に追いやられるのもよろしくない。税制改正は国民の暮らしを豊かにし、ひいては国力の発展に寄与するためになされるべきものと筆者は思うのだが、現実は一部の大企業や富裕層・外資に多くの恩恵をもたらし、国民度外視の税制改正になっている。

 森井氏いわく、この国の将来を考えたときに産業の空洞化が問題なのであって、デフレの根幹となった消費税の廃止が必要なのではと主張する。財源論については、前述のとおり、消費税を廃止してもそれのみで日本の国家(政府)破綻はなく、むしろサービスや商品の供給能力の低下が国力を弱めると指摘する。筆者も同意見である。

 税の所得再分配機能を考えた際、富める者を更に富ませ、貧しい者を更に貧しくさせる税制改正であってはならない。それは国力を弱め、この国の自殺行為を意味することになる。

 地上波では、よく「国の借金は国民一人あたりいくら」との報道があるが、正しくは政府の借金であり、政府の赤字により通貨を生み出すことになるので逆に国民は黒字になり豊かになる。投票率の高い高齢者層はマスコミにミスリードされ誤った投票行動をすることになる。マスコミも正しい情報を国民に提供してほしい。また、税制改正が自分たちの生活やこの国の将来に多くの影響を及ぼすので、私たちも正しい知識を得て、適切な投票行動と意見の発信ができるように努めたい。


参考 財務省:令和3年度税制改正の大綱の概要