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国際金融センターの実現は誰のため?

渡邊隆之

 1月18日、国会が開会され、菅首相の施政方針演説があった。その中には、国際金融センターの実現のことも含まれていた。

 昨年6月の中国の国家安全維持法の施行とともに、国際金融センターである香港の状況が大きく変わった。だからアジアや世界での国際金融センターの地位を確立したいという日本政府の意図は大変よくわかる。では、金融拠点実現に向け、具体的にはどのようなことをするのか。昨年12月8日の閣議決定にはこう書いてある。

 「海外で資産運用業等を行ってきた事業者や人材が同様のビジネスを国内で行いやすくするため、規制・税制面でのボトルネックを除去するほか、金融資本市場の魅力向上やコーポレートガバナンス改革等に取り組む。国・地方公共団体・民間一体で、資産運用業等を始める外国人の法人設立・事業開始・生活立上げへのシームレスな支援、事前相談から登録・監督等までの新規海外運用会社等への英語対応、在留資格の緩和や優遇措置の拡充を図るほか、外国語対応可能な士業や教育・住居・医療等の生活面に係る情報発信を強化するなど安心して日本でのビジネスを検討できる環境を整備する。」と。

 施政方針演説でも触れられているが、日本の強みとしては、我が国には良好な治安・生活環境、1900兆円の個人金融資産等があるとしている。しかし、筆者個人の感想としては、外資のハゲタカ軍団に便宜を図って、国民の個人資産を献上するように促しているようにしか思えない。日本では海外に比べ十分な投資教育もされていない。また、取引市場も不公正取引について厳重に取り締まる気配はあまりない。関係者の目先の利益でなく、公器として評価される国際金融センターを実現するには、組織づくりよりもまず先にやるべきことがあるのではないか。

 昨年12月4日の産経新聞のインタビューで竹中平蔵氏は、海外から優秀な人材を呼び込むため高額所得者についての所得税減税や、国家戦略特区制度を使って専門人材へのビザ発給や法人設立の要件緩和などについても触れている。

 しかし、先の小泉・竹中路線で郵政民営化の結果、分割された郵政各社の株価は上場時に比べ大きく下落した。また、非正規労働者の増大で人口減少に拍車がかかり、内需産業にも大ダメージを与えている。国内景気をよくするには、国民による消費が活発になることが必要で、消費税率の低減または廃止に舵を切る方がよいと筆者は考える。しかし、竹中氏の発言からすれば、新たに参入する外国資本の富裕層の所得税等減税分の補填として消費税の増税すら考えているように思えてならない。

 顧客誘引にあたり減税等ダンピングを続けるビジネスは長続きしない。また、閣議決定の資料では「国が挙げた戦略的な取組が奏功したインバウンドの教訓もいかし、観光に続きビジネスを行う場として」とあるが、今回のコロナ感染拡大に伴う負の部分について政府はどうお考えなのか。この国の実体経済と大きく乖離した外資依存の金融商品取引の活性化がこの国の繁栄に寄与するとは到底思えない。

 自然災害が増える中では、①水や食糧をしっかり確保すべく農林水産業を強固にし、かつ、災害に耐えられるインフラ整備をして内需産業の安定を図ること等により人口増大の結果を残すこと、また、②(この度の台湾のコロナ対策のように)為政者が誠実でかつ臨機応変に意思決定できること、が海外から資本を呼び込む王道なのではないか。コロナ感染拡大期に選挙への影響を考慮し国会を閉じる政府や与党では、小手先の施策しか実現できないように感じる。もちろん、そのような国会議員を選出している主権者にも問題がある。じっくり施策を吟味し、そろそろこの国を洗濯しようではないか。

 なお、この金融センター実現の政策は、コロナ対策や国土強靭化対策と同じ「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」の一施策として挙げられているものである。この国際金融センターの実現は果たして国民の命と暮らしを守ることになるのだろうか。

 形容詞の長い政策は中身が怪しげなものも多い。主権者の皆様、どうぞ注意されたし。


《参考文献》国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策(令和2年12月8日)

 https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/keizaitaisaku.html

 令和3年1月18日 施政方針演説