月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

気になる環太平洋のリーダーたち

音無祐作

 昭和に育った車好きの人間にとって、アメリカの車というのは憧れの存在でした。たとえ欧州のスーパーカーより遅くたって、コーナーリングが悪くたって、日本車より燃費が悪くたって、鋳鉄ブロックのV型8気筒OHVエンジンから繰り出される排気音は魅力的でしたし、「ビッグになったら、キャディラック」というのが、まさに成功者の証という印象でした。(意見には個人差があります)

 自動車だけでなく20世紀の後半、私たち多くの日本人にとってアメリカという国は、憧れの存在だったように思います。広大で豊かな国土、民主主義を自らの手で築き上げ、自由と平等に満ち溢れ、かつての敵国すら受け入れてくれる寛容さを持った博愛の国という印象でした。そんなアメリカがここ数年迷走し、国内の分断が広がっているように感じられます。11月3日の大統領選以降、この国がどう進んでいくのか非常に気になります。

 翻って日本では、一足先に決まった首相は隠蔽体質や説明責任の放棄、そして自らの意に反する意見には耳を貸さないという方針を含め、前例踏襲を安定第一の方向にするようです。

 その一方で踏襲ばかりではなく、デジタル庁の創設や不妊治療への公的支援、携帯電話料金の引き下げなどに本腰を見せたり、所信表明演説では「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したりと、新たな政策も掲げています。

 政治家が理想を語るのは良いことだとは思いますが、脱炭素についてはすでに欧州を筆頭に世界中がその必要性を認識し、再生可能エネルギーへの開発支援や、排出規制に前向きに進んでいる中で、具体策はこれからというのでは、世界からは「なんだ、具体策を尋ねられたら口ごもってしまった「セクシー」大臣と変わらないではないか」と思われそうです。

 もっとも「核兵器廃絶を目指したい」と発言しただけでノーベル平和賞を受賞した大統領もいらっしゃったので、問題はないのかもしれませんが。

 首相が交代すると話題となるのが最初の外交訪問先です。安倍首相は、2006年の第1次政権時には中国・韓国を訪問したものの、第2次となる前政権時にはベトナム・タイ・インドネシアを訪問。菅総理もこれに倣うようにベトナムとインドネシアを訪問しました。ウィズ・コロナの今後へ向けた、経済連携の為という見方もありますが、多くの目には中国や北朝鮮に対応する安全保障連携の強化・確認という風に見えると思われます。

 本当にその国との関係が不安なのであれば、まずはその国と直接話し合う場を設けるべきで、いきなり包囲網を固めるというのは、歴史を振り返えるといかがなものでしょう。

 かつては世界の警察と目され、一部からは盟主国とも讃えられたアメリカが混乱し、その一方で、ふるまい方次第ではあらたなリーダーと認められそうな大国中国もまた、こちら側からは迷走しているように見えます。初夢にはまだ早いのですが、このちっぽけな島国が太平洋の架け橋となることができれば、なんと素晴らしいことでしょう。

 それにつけても新総理には、まずは新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する人たちへの公助を始め、多様な専門家たちの意見に耳を傾けることが大切だと思います。携帯通信料金なんぞはそのあとでも良いと思うのは、…もしもーし、聞こえますかぁ。