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NHKが怖い

すぎかふん

玄関フォンが鳴るのでドアを開けると男が立っていた。「NHKですが」。うちはテレビを置いていません。「携帯電話を持っていても支払義務があります。」2011年地デジ切り替えの時、受像機が対応できないので辞めますと、NHKに受信料契約の解約申し込みの電話をした。テレビがなくても携帯があれば支払の義務があります。電話口の女性は強引だった。あの時と同じ、有無を言わさない強い調子を感じた。抵抗! のスイッチが入った。
 それはちょっと、違うでしょう、テレビを廃棄したら気象庁が発する緊急警報放送を受信できなくなったんですよ。気象庁のHPは「緊急警報放送に対応したテレビ・ラジオであれば、待機状態から自動的にスイッチオンになる」とあるが、NHK未加入ならば助けてやらないとは書いていない。
 私の携帯はアナログで、地震警報も受信できなかった。道行く人たちの携帯が一斉に鳴らす警報で、自分の居場所に警報が発令されたと知るしかない、自宅にいたのではそれすらも知りえなかった。心細かった。日ごろは「国は国民の生命財産を守る」と大見得を切るのに、NHKに払わないと危険情報を遮断するのか。さらにNHKには税金が注入されている、なぜ受信料を払う義務があるのか。税金の二重取りではないか。
 「新聞で読みましたよ、ワンセグは受信料請求の対象にならないと書いてあった」というと、いえ、さいたま地裁のワンセグ訴訟敗訴、あれは間違いなんです。NHKは民放と違い、国民の税金で放送している、他の人はみな払っている、果ては「携帯を見せてください」。
 そんな義務はない。「それは強制ですか、任意ですか」「見せていただくまで、別の担当の訪問が続きますから」。威圧、恐喝、ストーカー。恐怖がひたひたと、足元から這い上る。
 子供のころ、父の留守に玄関の上がり框に座り込み小間物を広げていた知らないおじさんに、母は凍り付いていた。歯ブラシ1本ぐらいで放免されたのだろうか。
 現代の押し売りは近代装備。携帯電話を耳に装着し、遠隔から情報支援があるのだろう。手にしたタブレットにはずらりと住所一覧が表示され、スクロールして一つを選んでペンタッチしている。相手はNHKとしか言わないのに、ここにこんな住人がいることを知って何かをマークしている。情報格差が大きすぎて怖い。不利だと思いつつこちらの名を言うと、名刺を差し出した。シャチハタが押してあった。
 情報のお店はNHKだけではない。特にお宅の商品は公平中立に欠け、偏向報道が目に余る。怪しい情報ならばネットで十分だ。なんであんなにたくさんのチャンネルがあるのか。民放と競合する番組は民放に譲り、国の予算の範囲内で放送事業の商品整理をしてほしい。今時ゴムひもが欲しい人なんてもういない。このビジネスモデルは破綻している。
 この仕事に就いている皆さんの、心が荒まないことを願っている。