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民主主義の点検作業もお願いします

渡邊隆之

 Twitterデモや検察OB有志の意見書提出にまで発展した検察庁法改正案は今国会での成立が見送りとなった。政府判断で検察幹部の定年を延長できるとすると、政界の不正などの捜査ができなくなるとの国民の懸念からである。

 検察OB有志の意見書では、法案の問題点のみならず、安倍首相の姿勢に対しても苦言を呈す。「安倍首相は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更する」と述べたがこれは内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王政を確立し君臨したルイ14世の「朕は国家である」を彷彿させる」と。

 これに対し、安倍首相は「自分は民主主義的手続を経てここにおり、その指摘はあたらない」と反駁するのだが、主権者である国民の心に全く響いてこないのはなぜなのか。

 思うに、与党自民党が多数議席を獲得しているも、有権者全体の17%程度の得票率であるし、また、議員定数不均衡の是正、弊害のある小選挙区制の是正も十分でない。

 さらに首相は国民が直接選出するわけでもない。日本の人口の1%に満たない自民党員の方々らにより選出される自民党総裁が実質的に首相にスライドするのであり、「我々の代表」という実感がない。それでも、全国民の意思に寄り添う法案提出や十分な説明がなされれば納得感もあるのだが、質疑に正面から答えない政府に国民は日々怒り心頭である。

 加えて、自民党議員も「首相官邸が党内で審議していない内容を唐突に発表した」などと首相を批判するが、もともと自ら決めた自民党総裁が首相になり暴走して国民の信託に応えられないことについて何の民主的統制もとれず、監督責任も放棄しているのではと、こちらにも怒りを覚える。

 確かに、国政選挙での低い投票率については、有権者側にも問題はある。しかし、今回の検察への民主的統制という前に、そもそも国政選挙で民意が効果的に反映する選挙制度の検討がなされているか、国会審議で重要な争点をはぐらかし、審議時間を必要以上に引き伸ばし強行採決に至るというプロセスが国民による民主的統制との観点から適したものといえるのか、まず、その点を政治家の方々には再考していただきたい。

 実際、首相官邸絡みの疑惑が芋づる式に出て、重要法案の審議に着手できない。地上波ではコロナ禍と検察庁法の話ばかりである。今国会では種苗法改正案の自家増殖禁止の件や、あの悪名高き竹中平蔵氏が座長で監視社会の危険性も孕むスーパーシティ法案、国民投票法改正案など国民の生活に関わる重大な法案などもあるが、これらについて内容を詳細に報道する局はほぼ皆無である。

 安倍政権になり報道の自由度の国別ランキングが急落した。国会中継も減った気がする。ちなみに、NHK経営委員は委員候補案を政府が提出し衆参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命するとのこと。「れいわ新選組」の山本太郎氏は街頭やネット上で法案の問題点を整理・解説するが、政党要件を具備した後もNHK日曜討論でその姿を見ることはほとんどない。いまの政権は大事なことを国民に開示せず、国民でない「誰か」のために汗をかいているのではと勘繰るのは筆者だけであろうか。

 地上波を主たる情報源とする高齢者にも十分納得してもらえるよう、政府もマスコミも国民の知る権利に奉仕すべく判断材料を提供すべきである。とりあえず、筆者は老親に論点解説のYouTube等を紹介しスマホで視聴してもらっている。ご近所のインフルエンサーになるか推移を見守っているところである。