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国民を顕彰する制度について

音無裕作

 国の表彰制度にはいろいろあるようですが、広く知られている一つに「国民栄誉賞」があります。2019年は元野球選手のイチロー氏が打診を受けたものの三度、固辞したことが話題となりました。

 この制度には様々な意見があり、その一つに「競技選手は現役の若い全盛期、芸能・芸術などには主に没後」という、受賞時期の違いを問題視する意見があるそうです。イチロー氏は、2度目までの打診の際には「現役を引退してから」、3度目の時には「人生の幕を下ろしたときにいただけるよう励みたい」と辞退したそうですが、そういった点も勘案したのでしょうか。

 そもそも国民栄誉賞は、1977年に時の総理大臣福田赳夫氏が、王貞治氏の本塁打世界記録を称賛するために創設したのが始まりだそうで、その目的は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」とされています。それまでの表彰制度や叙勲では、スポーツ分野は対象外とされていました。以来、スポーツ等の競技選手や芸能、芸術関係者などに広がって今に至ります。

 2019年10月、緒方貞子さん(2003年文化勲章受章)がお亡くなりになりました。ライフビジョン学会でも2015年と2017年、年末チャリティオークション・パーティーの寄付先として、国連難民高等弁務官事務所とはご縁がありました。そしてこの12月には、アフガニスタンの復興に努めてきた日本人医師、中村哲氏が殺害されたという悲しいニュースが入ってきました。

 追悼ニュースで紹介された氏の功績を目にすると、なんと素晴らしい人物がいたものかと感銘を受けました。恥ずかしながら中村哲氏の活動を存じ上げなかったのですが、世界のあちこちでこのように、多くの人々のために粉骨砕身の活躍をされる日本人はまだまだ、たくさんいるそうです。しかし平時において、そうした方々の素晴らしい活動が顕彰される機会が少ないように感じます。

 常日頃の報道では、スポーツや芸能関係の方々が多くの影響力を持っているように見受けます。私自身、イチロー氏と矢沢永吉氏の対談を本にした「英雄の哲学」や、現役サッカー選手の三浦知良氏の「やめないよ」等には感銘を受けましたし、矢沢永吉氏の「成り上がり」は人生のバイブルと言っていいほど、心酔しています。

 確かに、暗い戦後復興時期から高度経済成長期を過ぎるまで、庶民生活に「明るい希望」をもたらす娯楽芸能番組の効用は認めますが、もはや成熟期只中の私たちは、自分たちだけではなく、世界から敬愛され、世界に明るい希望を与えられるような存在になることを「栄誉」として自覚すべき立場にあると思います。

 そこでいっそ、これまでの国民栄誉賞は、「内閣総理大臣杯スポーツ芸能大賞」などわかりやすい名前に変え、「国民栄誉賞」たるものはその名にふさわしく、新たな次元へとステップアップしてはいかがでしょうか。世界の主要国が内向きになっている今こそ、そのような栄誉を称えられる社会を目指せば、「後悔などあろうはずがない」と思うのですが、いかがでしょうか。