1970年代、大物議員の春日一幸氏の演説は浪曲調で面白かった。たとえば、「候補者は吠え、妻は泣く~」「理屈はあとから貨車に積む~」という調子で、当時もすでに極めつけ古いタッチなのであるが、聴衆を引きつけることにおいては他の追従を許さず、の気概が感じられた。
保革対決の都知事選には多数の泡まつ候補が登場して、まったく別世界を演じてみせた。立会演説会で記憶鮮明なのは、右翼の赤尾敏氏、芸術家で革新系の秋山祐徳太子氏、LGBTの「G」を押し出す革新系の東郷健氏で、満場拍手喝采であった。これら諸氏には少数ではあるが確固たる支持者もおられた。3氏は楽屋ではお互いの主張に共感しておられたそうだ。
当選する気はまったくなかったが、その主張は、いずれ劣らず真剣なもので、言論戦においては、一種選挙における現代芸術みたいな雰囲気が漂った。もちろん供託金は没収で、いずれ劣らず「非お金持ち」であるから、仲間のカンパニアで出馬されたのである。
この10日の海老名市長選挙では現職に新人2人が挑んだ。話題になったのはN国の立花氏である。先の参議院議員選挙(比例区)で得た議席を捨てて、埼玉県知事選挙に出馬して落選、続いて海老名市長選挙に挑戦した。
現職が32083票、次点19239票で、立花氏は最下位2990票。選挙戦開始早々の評判は「旋風」が巻き起こりそうな予感もあったが、全得票総数の5.5%でしかなかった。
立花氏は、次は来年2月の京都市長選挙に挑戦すると語った。二度惨敗した関東での仇を京都で取ろうというわけか。選挙戦を通して、意識調査か市場調査をやっているような面もあるし、当選して仕事をするために出馬するのではなく、選挙自体が目的化しているようにもみえる。
問題提起をしているつもりかもしれないが、選挙だけで政治を変えることはできない。昔の泡まつ候補のさわやかさが感じられないのが残念だ。