論 考

アイルランド問題のトゲ

 フランスが目下は長期間の延期を反対しているが、イギリスのBrexitの延期は避けられない。

 すでに3度延期したが、延期しなければ10月31日に「合意なき離脱」である。これ、イギリスもEUも大方は望んでいない。

 長期に延期する場合、やはり、下院の解散・総選挙を抜きには考えられない。あるいは、再度の国民投票という方法もあるが、議会多数の意見ではない。

 アイルランド問題が重要な鍵だ。19世紀以降、アイルランドの民族運動が高揚した。イギリスはアイルランドに自治権を付与することにしたが、北部のイングランド・スコットランド系(プロテスタント)の人々が反対した。

 彼らはカトリックに対する少数派である。1919年アイルランド独立戦争が始まり、20年北アイルランドでカトリック系のIRAがテロ活動を開始した。49年アイルランドはイギリス連邦から離脱したが、70年ごろが北アイルランド紛争のピークであった。

 ようやく98年4月10日に、『聖なる金曜日』といわれる和平合意が成立した。合意の中に、南北アイルランドが諸問題について国境を超えて対処するという項目がある。

 イギリスがEUを離脱する内容によっては、北アイルランドとアイルランドの関係が後退する。微妙な均衡を維持してきたのであるから、これは極めて鋭い問題をはらんでいる。ジョンソン流の「えーい、やってしまえ」というスタンスに、おいそれとは乗られない。

 行き詰りを解決するためには、総選挙か、国民投票か。いずれにしてもイギリス国民は、アイルランド問題をどうするかの意思決定を迫られている。