論 考

トンチンカンの止めを刺した所信表明

 外国人技能実習生の失踪が2018年には9,052人も出た。いま、実習生は約33万人おられる。

 技能実習制度は、実習生が技能などの適正な習得を得ることが目的であり、労働力の需給調整にしてはならない。しかし、本来の目的にかなうように実習生の面倒をみている会社があるのか、極めて疑問である。

 もちろん、実習生は優雅な研修に来日するのではない。少しでも多く稼ぎたい立場の人々ばかりである。目下、送り出す側の機関と受け入れる側の機関は繁盛しているらしいが、ご本尊が失踪するのは尋常ではない。

 失踪といえば、いかにも本人の不心得みたいな印象があるが、賃金がきちんと支払われなかったり、長時間労働させられたり、果ては暴力行為も指摘されている。失踪ではない、止むにやまれぬ避難である。

 安倍氏は、臨時国会の所信表明で、パリ講和会議(1919)において、日本が人種平等を主張して、いまや、それが国際人権規約はじめ世界の基本原則となっていると述べた。唖然とした。歴史の捏造も極まった。

 当時、中国人・朝鮮人を差別しつつ、ILO設置に関連して、組合の自由・最低賃金・8時間労働制などが提起されたことに対しては、10か年の猶予を取り付けた。典型的な差別大国であった。

 言うこととやっていることの大きな違いに対して、欧米諸国から厳しい非難を浴びせられた。国連人権規約の淵源などという文脈を構想するのは、知性ではなく「痴性」である。

 技能実習生の扱いを重ねて考えれば、なおさら恥ずかしい。真っ当な歴史認識のできない人間に、真っ当な答弁ができるはずがない。まして、国の在り方を語る資格などあるものか。