トマス・モア(1478~1535)の『ユートピア』(1515~16)を思い出した。
ユートピア国では、財産や金銀に対する執着がまったくない。金銀が何に使われるかというと、便器を作る。奴隷の足枷・手枷、罪人のイヤリングや指輪、ネックレスとして用いられる。
はたまた、子どもの玩具に使うのだが、子どもたちは長ずるにしたがってまったく顧みなくなる。
光るものが見たかったら、星や太陽を見ればよろしいというわけだ。
モアが『ユートピア』を書いた15世紀のイギリスでは、貧困者が多く、貧困が原因の窃盗が多かった。窃盗罪で死刑が1万人もいたという。
ヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』(1862)の主人公、ジャン・ヴァルジャンは、いくら探しても仕事がなくて、飢餓に苦しむ姉と子どものために1本のパンを盗んで10年の懲役を科せられた。
9月14日、芸術家マウリツィオ・カテラン氏(伊)が制作したイングランド・ブレナム宮殿(世界遺産)の「黄金の便器」が盗まれた。実際に1人3分以内で使用可能なのだそうだ。作品タイトルは『アメリカ』というのもまことにシャレている。