論 考

イギリス新首相の分かれ道

 ボリス・ジョンソン氏が英国首相に就任する。国民の支持とは別に保守党内部では人気があるから想定内である。

 保守党党首に当選したスピーチで、ジョンソン氏は、「EU離脱」「国の結束」「打倒コービン(労働党党首)」の3点を掲げた。

 ジャーナリストのジョンソン評は、3つの能力! を挙げている。いわく、事実を無視する能力、アジテーション能力、スキャンダルに倒れない能力だ。

 保守党勢力は弱体である。労働党が不信任案を提出すれば可決される可能性が高い。しかも「合意なきEU離脱」に走れば反旗を翻すと公表している保守党議員がかなりいる。

 2017年6月にメイ首相が誕生した時、「ブレグジット問題は、誰が、それを交渉するかの問題ではない」。誰がやってもうまくいかないという見方が強く、事実その流れになった。

 ジョンソン氏は「賢明な知恵を独占している人や党はいない」と語った。その通りである。

 しかし、ジョンソン氏は開き直っているかもしれない。EUは再交渉しないと宣言している。それに対して英国議会はまとまらない。内外に合意できないのだから、ならば「合意なき離脱」へ突き進む。

 あるいは、解散総選挙に向かうか。再度の国民投票に向かうか。要するに、事態は何も変わらず、凍り付いている。

 もともとはキャメロン元首相が不用意に「ブレグジット」を国民投票にかけたことだ。出口が見えない場合に大事なことは出発点へ戻るべし。ものごとを容易に決められない場合、慎重な手続きを軽視すれば、混乱はさらに進む。

 これ、イギリスだけではない。昨今の世界はデモクラシーに対して深慮を欠く政治家が多すぎる。憧れの権力を手にしたジョンソン氏が、前評判と異なるデモクラシー精神を発揮するかどうか。

 もし、それができるならば、ジョンソン氏は、衆愚政治花盛りの世界の流れを変える転換点を導く偉大な政治家になる。かすかな期待を持ちつつ事態の推移をみる。