論 考

狂気について

 酷い事件を起こす人がいる。

 人の心は無限の暗闇だから、何が起こるかは予想できない。

 仏文学者の渡辺一夫(1901~1975)『狂気について』の、「人間は狂気なしでいられないものらしい」という言葉が、いつも頭の片隅にある。1人ひとりが取り組めることは、自分の狂気を暴れさせないようにすることだ。

 だから、公職に就く人や、知識人、いささかのリーダーたる人は、自分が発する言葉の重たさをつねに忘れてはならない。

 差別や、なんでも自分の味方と敵の区分をして得意になるような発言を、影響力のある政治家がやってはならない。それは、日常生活に戦争意識を持ち込むことである。

 妥協のない絶対主義を振り回す気風が、人と人が織りなす社会の道徳的土壌を荒廃させる。それが、いまの内外の雰囲気である。

 奇跡的にナチス収容所から生還したV・フランクル(1905~1997)の「まともな人間は少数派である」という言葉をかみしめる。