論 考

あちらでもこちらでも

 イギリスの駐米大使キム・ダロック氏の機密公電・メモが、『Daily Mail』で報じられた。いわく、「トランプ氏とその政権は無能、例を見ないほど機能不全」など。

 その指摘は当たっているが、的確とは言えない。無能、機能不全どころか、世界中を危機に陥れ、理性の歴史を後ろ向きに走らせている。

 フランスの外交家カリエール(1645~1717)『外交談判法』には、「大使は尊敬すべきスパイである」という名文句が書かれている。

 外交官として最大の心構えは、好むと好まざるにかかわらず、相手を尊重することである。情報漏洩はダロック氏の責任ではないとしても、大使としては「アウト」だ。

 対外交渉というものは、突如として政変を起こす。これも重々承知のはずだ。無能で機能不全な相手と接しているのだから、なおさら注意しなければならない。「交渉相手国の政治形態を批判してはならぬ」のも、カリエール的鉄則だ。

 イギリスの諜報機関は昔から有名で、たいした実力だと仄聞しているが、こんなものが漏れてしまったのは大失態だ。イギリス保守党による政治も、キャメロン元首相以来、ブレグジットで無能・機能不全ぶりを露呈している。

 日本外交が相対的に上等だと言うのではない。こちらは自主・独立精神を欠いたアメリカの尻馬に乗る外交だということを考えると、もっと暗たんとしてくる次第である。