論 考

偉大さの片鱗

 『プルターク英雄伝』にアレクサンドロス(前356~前323)について記述したところを読む。

 アレクサンドロスは20歳でマケドニア王に即位し、ギリシアを支配し、シリア、エジプト、ペルシアを征服し、インドにまで攻め入った。これがわずか13年間の活動である。

 プルターク(46~120)によると、アレクサンドロスの軍隊は、歩兵が3~4万人・騎兵が4~5千人程度であった。その戦争技術は疾風怒濤のスピード感にあったのだろう。これは、後にナポレオンが採用したし、ヒトラーも然りであった。

 ナポレオンが帝位についてからセントヘレナへ流されるまでが11年、ヒトラーが総統になってから自殺するまでが11年だ。世界中に強烈な印象を与えたが燃え尽きるのもスピード感に溢れている。

 アレクサンドロスは、あるとき「樽の中の哲人」として乞食のような生活を楽しんでいるディオゲネスを訪ねた。日向ぼっこしていたディオゲネスの前に立ってアレクサンドロスは「わたしに何かできることはないか?」と語りかけた。ディオゲネスは、「ちょっとその日の当たるところを避けてください」。

 アレクサンドロスは、「わたしがアレクサンドロスでなければ、ディオゲネスになりたい」と語ったそうである。周辺が大笑いしているなかで——

 これは、アレクサンドロスの人間的偉大さに貢献するエピソードになった。