論 考

ノーマンの忠告

 パスポートの期限が来月なので、昨日更新に出向いた。だいぶ待たされる覚悟で、なんども読んだ『クリオの顔』(E・H・ノーマン)を持参した。

 書類を記入して列に並んだ時点からパスポート受領のための書類をもらうまで1時間ほどで、予想外に早かった。聞けば、当日は人が少なかったそうだ。

 カナダ人であるノーマン(1909~1957)の著作でもっとも有名なのは『日本における近代国家の成立』である。書かれたのは1940年、ノーマン31歳である。最初の邦訳は47年である。素晴らしい歴史書であるから、ぜひお読みいただきたい。文章に無駄がなく、懇切である。

 『クリオの顔』はエッセイで、しっとりした名文である。そのなかに、48年に慶応義塾大学での講演がある。敗戦後のデモクラシーの流れにあって、温かく静かに、デモクラシーを実践する心構えを説いている。

 「皆さんは自由を押し広げるのにたゆまず努めなければならぬ、自由を守るのに油断してはならぬ、ということです」という一行が心に沁みる。

 日本政治を奇形にしたのは、この努力が足りなかったからだ。