論 考

経済的権力を掌握するものの矜持

 スウェーデンのボルボ会長スバンベリ氏は、欧州産業家円卓会議ERTの議長でもある。同会議はEUの55人のトップ経営者が参加しているそうだ。それらの企業の売上高は282.5兆円に達する、いずれも多国籍業である。

 スバンベリ氏は、米国・中国へシフトしている企業戦略を欧州内へシフトさせるべきだと発言した。

 背景には、低賃金を前提した中国事業は以前のようには利益が上がらない。また、米国の株主価値を最優先する企業モデルに疑問を抱いている。

 世界中で席捲するポピュリズムが、格差拡大に大きな原因があることに着目し、資本主義を継続するためには、すべての人に支持されなければだめだという重要な見識を表明した。

 中世の封建社会を打倒したのは、ブルジョワと労働者である。そこから資本主義が発展してきたのだが、今日、ブルジョワと労働者との間には大きな亀裂が発生している。それがポピュリズムの根源である。

 産業におけるいかなる利益も労働なくしては獲得できない。狭い了見でわが社の儲けだけに奔走する経営ではいけない。

 資本主義社会において、経済的権力は巨大な産業資本家の手に集中している。権力の行使を誤れば社会が円滑に持続できなくなる。これを認識したのは、さすがである。

 わが国の大企業経営者にもじっくり考えてもらいたい。