論 考

ルネサンスがない、われわれの歩み

 ブルクハルト(1818~1897)は、スイス・バーゼルの文化史家である。

 著作『イタリアにおけるルネサンス文化』(1860)は、ルネサンス文化研究で後世に偉大な研究の世界を提示した。

 わたしの手元に、岩波文庫『伊太利文藝復興期の文化』上(7刷・1941)と、下(3刷・1950)がある。上巻の初刷りは、1931年に出版された。

 翻訳された村松恒一郎氏(下巻は藤田健治氏と共訳)が上巻の跋に次のような記述をしておられる。(要約)

 ――わが国の文化は明治後期以来、あわただしく西欧文化を受け入れてきた。生活の大部分が西欧文化なくしては考えられない。

 しかし、わが国が文芸復興、宗教改革、啓蒙時代などの根本を体験せずに、直ちにその成果を受け入れて云々――

 初版出版の1931年は満州事変が起きた年である。

 西欧のハードばかりに目が向いて、封建時代とさして変わらぬ発想で武力に依存して海外雄飛を図る気風に危惧を持っていたのではなかろうか。

 神田の古書店でみつけた本が、いまも思索の道標になる。