論 考

クリティーク

 ドイツ語のkritik(クリティーク)は、英語ではcritiqueで、批評・批判の意味である。元はギリシャ語のkrino(吟味)だそうだ。

 ばりばりの技術者であった先輩はことあるごとに「クリティカルな精神をもたねば、いい設計はできない」と語られた。

 わが職場のボスの口癖は「機能が優れた機械の外見は美しい」であった。ボスは、納期切迫している構造物の設計をやり直しさせたこともあった。優れた機械を作るために、納得できない設計では妥協しない。

 「本当にこれでいいのか」という「懐疑」精神を、ボスとその右腕である先輩が共有しておられた。

 わたしは当時の力作の写真をしばしば眺める。わたしは素人ではあるが、なんど見ても美しいと思う。

 美しいものを作ろうとする目的意識と、「本当にこれでいいのか」という懐疑精神をつねに維持するkritikが、あまねく人々に共有されるような社会を築きたいものである。