論 考

常軌を逸す

 1945年3月10日夜、B29爆撃機344機が東京を焼夷弾爆撃した。死者約10万人、全都の4割が焼かれた。以降、日本の空は米軍機が思うままに飛び回る。

 3月10日は「陸軍記念日」で、杉山元陸軍大臣が陸軍将兵向けに告辞をした。いわく「敵が皇度侵寇を企図しつつあることは火を見るよりも明らかなり」。それが直ちに現実になった。

 「およそ戦勝獲得の根基は至誠純忠烈々たる闘魂と必勝の戦意とに存す。前陸軍将兵よろしく挙げて特攻精神の権化となり」云々。

 大本営スポークスマン松村報道部長はラジオ放送で、空襲直前、「もし敵にして本土に侵攻し来ることあらば、全員弾丸となり守れば一兵城となる」云々。

 なるほど、他者には見えない闘魂・戦意そのものを叩くことはできないとしても、人が弾丸に変化するわけにはいかない。

 論理崩壊、支離滅裂だ。

 1941年12月8日の対米英蘭開戦から、足掛け5年の戦争指導は、まさしくクレージーという言葉以外に表現する言葉が見当たらない。