週刊RO通信

危ないトランプによる世界の危機

NO.1250

 中東ではサウジアラビアとイランが常に全面戦争の可能性を秘めて対立している。これにイスラエルが絡んでいる。トランプ氏がイラン核合意から離脱を表明したのは極めて危ない仕業だといわねばならない。

 2015年2月に、当時の大統領オバマ氏が主導権を発揮して、対イラン和解協議を推進する最中、米共和党議員が議会演説に招聘しイスラエル首相のネタニヤフ氏が3月3日に議会で対イラン核協議反対の演説をぶった。

 オバマ氏のホワイトハウスは、われ関知せずで、異常な事態だった。それでもオバマ氏はイランとの核合意をまとめ上げた。これには10年余にわたる前史がある。わが新聞の扱いが他所事みたいなのが気がかりである。

 イランとの間で核合意路線を進めたのは、フランス・ドイツ・イギリスであった。欧州各国は北大西洋条約機構(NATO)で集団安全保障体制をとっているが、アメリカ流「力の平和」論とは一味異なる。

 EUを創設したように、欧州の国際外交戦略の基盤は平和を維持することにあり、力で押しまくるのではなく、国際規範(外交的ルール)によって世界秩序を守ろうとしている。もちろん、容易なことではない。

 「中東は火薬庫」というのが第二次大戦後一貫した世界外交の厄介な課題である。1つの国にとって外交は内政とコインの表裏である。混乱した国を経済的に巡航軌道に乗せることは簡単ではない。

 仮に余裕のある国が外から手を差し伸べたとしても、直ちに国内政治が安定して人々が豊かになるわけでもない。周囲の力のある国々が一致結束して根気よく支えて行くことが何よりも肝要である。

 その文脈で、15年末までに、米英仏独中ロとイランの間で、核開発施設縮小や条件付き軍事施設査察で合意協定した。イランは資産凍結など解除され、国際貿易体制へ徐々に戻ってきたのである。

 フランス・ドイツ・イギリスが、イラン核合意に関して、中国やロシアを参加させた意義は、いま、誰が考えても極めて大きい。そこに至る10余年の活動自体が世界平和に向けた努力であった。

 しかし、サウジアラビアは対抗して「核保有を検討する」とし、ネタニヤフ氏は「歴史的誤り」だとして反対論をますます先鋭化させた。サウジアラビアの皇太子・ムハンマド氏とネタニヤフ氏が対イラン強硬の旗頭である。

 サウジは中東におけるスンニ派の糾合に走る一方で、敵対関係にあったイスラエルとも14年から秘密裡の提携交渉を重ねていた。「敵の敵は味方」論のままに振る舞ってきたわけだ。

 2016年1月13日にオバマ氏が「イランの新たな戦争を回避した」と表明したのは、決して手前味噌に外交成果を誇ったのではなく、まさに、綱渡りの火消作業で平和維持へ進めたという安堵感ですらあった。

 トランプ氏は大統領就任直後に中東を歴訪し、露骨に対イラン包囲網を呼びかけるなど、それまでの尽力をあざ笑うかのような行動をとった。しかも、欧州の難民問題などでも対イスラム政策が甘いと批判を繰り返した。

 対北朝鮮への妥協しないサインを送ったという手前味噌の理屈が発せられているが、むしろ、せっかく朝鮮半島で話し合い気運を作ったのに、新たに中東の火種に点火したことには外交的一貫性が欠けている。

 トランプ氏が、サウジアラビアとイスラエルに乗せられて、「イランの新たな戦争を作った」ということになりかねない。しかも、それはアメリカと欧州との「大西洋パートナーシップ」の存立に対する危惧を大きくした。

トランプ氏が就任直後から北大西洋条約機構諸国に対して、欧州各国がアメリカに軍事負担をさせてただ乗りしているというような非外交的発言をやったのも記憶に新しい。誇り高い欧州諸国が愉快なわけがない。

 イランは、約束されている制裁解除が得られ続けるならば核合意を尊重すると表明している。アメリカが離脱に基づいた対イラン制裁で、イランと取引する欧州企業を制裁すれば、米欧間の亀裂は決定的になりかねない。

 「力による平和」を信奉する者は傲慢である。自己中心主義の権化で、偏見の塊のような「トランプ氏との盟友関係」に丸投げしたような日本的外交の総指揮者もまた右に同じだ。日米暗愚同盟と言うべきだ。