週刊RO通信

タクシー版政治談議

NO.1238

 忙しない旅をしているので、旅情を味わう余裕がないのが残念であるが、それでもちょっとした発見や楽しみがある。タクシー・ドライバーとの短い会話がその1つである。

 思えば25歳で運転免許を更新せず——理由は単純で、飲酒機会が増えたのと、それが嫌いでもないわけだから、運転しないことこそ無事という次第だ。以来、タクシーのお世話になる機会が多かった。

 その間、接するドライバーの仕事力の向上を感ずることが少なくなかった。客を目的地まで安全に届ける力はもちろんだが、会話力も並々ならぬものを感ずる。なにしろ、どんな客が乗車するかはわからない。

 ただ調子を合わせるだけではない、いつの間にか、座談をやっているような心地になることが少なくない。知識を得るだけではなく、モノゴトをよくお考えになっているのである。

 もう1つは、その地域でよく読まれている新聞を読む楽しみである。全国・世界の記事は共同通信や時事通信の配信記事であるが、地域の人々に対して全体にどんな論調で書かれているのかを知るのは興味深い。

 また、天下国家を論ずるにしても、全国紙と地方紙を比較すると、地方紙のほうが人々の日常生活的感覚に立脚している。と、わたしには感じられる。

 たまたま『愛媛新聞』社説(2/16)が目に留まった。愛媛県が2017年度2月補正予算と、18年度当初予算案を発表したことに対する社説である。補正予算案は、4月に今治市に開校する加計学園経営の岡山理科大学獣医学部に対して、市が学園に交付する補助金の3分の1の約14億円を計上した。

 いわく――安倍氏の「腹心の友」が理事長である学園に対し、官僚らが忖度し、行政がゆがめられたのではないかとの疑惑が拭えていない。補助金を出すこと自体が適正なのかどうかの説明もないまま、予算案を計上することに疑問を抱く。

 中村時広知事は記者会見で、国の認可という「法的な裏付け」があることを理由に、「開学できないと、学生の募集などいろいろな問題がある」と補助金支出の理由を説明し、決定過程については「国会でしっかり議論してほしい」と真相解明を国会に委ねるとした。

 社説は――特区申請前に今治市職員と県職員が首相官邸を訪れており、官邸が学園を「特別扱い」している。県として、面会相手を公表するなど真相解明のために県ができることはまだある――と指摘する。

 ところで、補助金支出に際し、県は学部整備総事業費約192億円を精査し、そのうち5.8億円ほどを補助金対象から外した。公共単価と比べて割高な工事費の差額や、学園名入りの看板代などだ。そこで、192億円を妥当とした今治市の第三者機関の審査が甘かったことも社説は批判している。

 約6万項目を精査した結果らしい。しかし、そもそも192億円自体が妥当性を問われていることに比較すると、あまり迫力を感じないのでもある。

 ともかく、この社説の見出しは――「加計」解明なしの補助金は疑問――というのである。「怪しい加計問題」を批判しているわけだ。

 さて、仕事を終えて松山空港まで呼んでもらったタクシーに乗った。この日は松山らしく、車窓からは農家地帯の穏やかなたたずまいに暖かい春の訪れを感じた。この冬の四国は非常に気温が低かったとか、東京より寒かったなどと気象談義をしていたが、いつの間にか政治談議に移った。

 ドライバーさんは、首相の答弁がなっていないことを指摘された。さらに、獣医学部問題は汚職以外のなにごとでもないと見ておられる。モリ・カケと並べば、以前なら政権が吹っ飛んでもおかしくないが、なにしろ真っ当な理屈が無視されるのだから情けない。酷い政治を嘆くことしきりである。

 ドライバーさんの語る内容は悲憤慷慨なのだが、まことに淡々と穏やかな語り口で、外から見れば年寄り2人が茶飲み話でもしているとしか見えないであろう。「なんとしても主張し続けにゃいかん」

 聞けば、わたしと同い年である。かつて運輸関係の組合で役員をしておられた。なにやら同窓会めいてきたようでもあった。改めて連帯を表明! 悪政批判を継続すべしと意見一致して、帰途に就いたのでありました。